最恐の胸糞映画でありながら、最高にポジティブなメッセージを放っているような気がする実話もの。
平凡な男がサイコパス夫婦に巻き込まれて地獄巡りする物語。
かつて、たまたまTVで本作の元となった埼玉愛犬家連続殺人事件の巻き込まれた共犯者の顔見せインタビューを見たことがあるが、本当に地獄を見た人の表情だったと強烈に記憶している。笑いながら人間を解体している犯人に巻き込まれ共犯となった平凡な男の顔は、役者には絶対に再現できないだろうと思わせる程の迫真の絶望が伝わる表情だった。本作では吹越満がその役を担っている。
結論から言うと、吹越満の演技こそが本当に素晴らしく、あの究極の絶望を見せた本物の表情に肉薄していた。
どういう風にあそこまでの演技を引き出せたのか分からない。だが、監督の実妻である神楽坂恵の乳を狂ったように吸う吹越さんの狂気は寒気がするほどだった。夫の命令でその人の妻の乳を吸うとは一体全体どんな気分なのか?察するに異常な熱気と狂気が入り交じった現場でなければ、そこには到達しないはず。
「愛のむきだし」を代表する様々な作品でも役者を極限まで追い詰めたという園監督。一度しか出ない役者が多いのもそのため。
しかし、実は1番追い込まれているのは監督本人かもしれない。妻を他人に抱かせて得る極限の感情から滲み出る狂気。それを推進力に作品を創り、他の誰も到達できないレベルへと持ち上げる。
そこは甘美な狂気に満ちた映画地獄。
愛されることもないだろうけど、全てに抗ったものにしか出せない風景は確かにある。
そこまで追い込むと何故だか、生きることに対してポジティブな荒々しいメッセージを貰ってる気分に陥った。
痛みの中でしか生を実感できない園監督。最近死にかけた上にニコラスケイジ主演作も頓挫しかけて何とか完成したそうな。
これは、もう極限に追い込まれた死の淵に見た何かが撮られてるのに違いないと期待してしまう。
彼の血みどろの愛を見ると、平凡な人生を生きてきたことに感謝いっぱいになる。本当に普通に生きてて良かった…