yui

メットガラ ドレスをまとった美術館のyuiのレビュー・感想・評価

3.8
ファッションはアートか?
ファッションは政治的な疑問を起こすか?
本作を鑑賞した後には、その問いが全くの的はずれに思える。
私は、人の心を動かし、言語を越えて共有できる感情を起すものを孕んでいれば、全てがアートだと考えている。
そもそも、例えばこぼした牛乳の模様でも、本人が芸術的な何かを感じればアートなのだ。

芸術が軽視されがちな現代の世の中、ファッションは尚更だ。
ファッションは分かりやすく当時の世相や国の特色を表す資料でもあるため、どちらにせよ美術館が所有してしかるべきである。
その当時の人々が追い求めた美や憧れが、ドレスという洋服につまっている。
云わば過去の人々が生きた証だ。過去は過去。そして学ぶ必要があるものだ。決して布は語らず、それを受けとる我々の感性が試される。
政治的な観点でしかそれらを捉えられないのならば、些か感性が浅はかではないだろうか。

2015年のメットガラは中国がテーマであった。異国的なファンタジーとしての要素が引き立てる美しさ、エキゾチックなニュアンスを愛しく思う業界人は多く、ファッションに限らず音楽や絵画、陶器、映画にまで至る、その独特のセンスが世界中を魅了してきた。
特に女性の神秘性や艶美なオーラ、アジアンビューティーは、他国には無い価値観だ。
歴史と想像の両方から生まれた美、女性像、理想のかたちが具現化したドレスの数々。

画面の中のドレスがパッと目に映る瞬間に息が止まるような、こんな感覚を他人と共有していること自体が素晴らしい。
美というものが世界中に、人間一人一人にもたらす影響力は計り知れない。
ファッションの重要性を認め、時にアートとなり得ることを理解して欲しい。
我々人間は、心動かされる瞬間のために生きているのだ。誰かにそんな感動をもたらすファッションが、今よりも光を浴びる世界を望んでいる。
yui

yui