このレビューはネタバレを含みます
少年エリオが避暑地で出会ったオリヴァーは、見目良く頭脳も明晰で当然異性に人気があって、とにかく目立つ青年であった。
彼に対してなんだか無性に苛つく気持ち、それ自体がもう気になっている証拠だった。
そんな気持ちからどんどん好きになって、愛していると自覚するまでの間にくしゃくしゃに捨てた置き書きの紙の数。
暑さで眠れない夜。
嫌われたくない。
自分が他の女の子と遊んでも顔色1つ変えてくれない。
話を聞いて欲しい。
沢山の想いが駆け巡った夏。
やがて愛し合う2人の情熱は、眩しく美しく「ただそこにあった」のに。
夏が終わり2人が離れてから2年、オリヴァーが結婚の知らせをくれた。
オリヴァーが、自分の父に知れたならば施設行きだと言っていた通り
この時代のアメリカで同性愛を打ち明けられるはずもなく、
「人並み」で「他人から求められる」形に収まった幸せを選んだのだろう。
愛し合っているのに、どうしても友人以上になることができない事実をどれだけ恨んだかわからない。
「2人が愛し合えた場所」を離れるときに、恋人としてのエリオとの別れを覚悟しただろう。
互いが「幸せ」になるために自分の心を削って、消えない痕を愛し続けることがオリヴァーに出来る全てだというのなら、残酷なのは彼ではなくこの世界だ。
忘れないということはその愛を抱いて生きていくということ。
君の名前で僕を呼んで。
君が僕よりも僕を理解しているのなら、
「僕」はもう「君」のなかにいるんだってこと。
自分の名前で相手を思い出すのなら、忘れることも出来ない。
忘れないから忘れないでと、まじないのように、祈りのように。
いつまでもその名が、2人をあの夏の日に戻すのだろう。