Kuuta

インディ・ジョーンズと運命のダイヤルのKuutaのレビュー・感想・評価

3.5
想定よりずっと良かったです。ファンサービスありきの作品はクソだと思っているけれど、ラストのツーショットで泣いてしまい、私は普通にインディのファンなんだと思いました。

(インディにとってあの人との関係が重要だということは、レイダースを撮った時点でスピルバーグとルーカスが決めていた。それがこういう形でスクリーンに現れていると考えると涙が…。特に説明も前振りもないので、知識がないとピンと来ないとは思う)

・パルプ雑誌や古典映画を参考に、楽しく爆走するルーカスのビジョンや熱量は消えているし、それをまとめるスピルバーグの上手さ、特に編集のテンポが欠けている点は今作最大の難点だ。代わりに、シリーズのお約束の再生産=「元ネタの孫引き」化が進んでいる。EP7以降のスターウォーズと同じ、ディズニー傘下の二次創作。

映画の内容が過去作に依拠しているにも関わらず、「インディは過去に生きてはいけない」のだと、無理矢理叩き起こされている。フランチャイズに取り憑かれたディズニーらしい欺瞞と言えばそれまでだが、好意的に見れば、「未知との遭遇」を踏まえたマンゴールドからスピルバーグへのエールとも言える。

・元々もっさり気味のシリーズのアクションを、CGで再現している。殺陣を現代風に作り込み、新世代の観客を取り込むような意識は感じられない。「インディみたいなアクション」がのペーっと続く2時間半は、このシリーズに思い入れがないとキツいだろう。

ただこれも作り手の怠慢というよりは、インディらしさをなるべく保ちながら、今のハリソンフォードができる最良のアクション(カーチェイス多め)を考え、花道を作ってあげているのだなと、モロッコのシーン辺りから考えていた。ハリソンフォードのインディは最後だと明言されている以上、これで良いのではないか。イーストウッドの「クライ・マッチョ」に近い印象を持った。

・終盤はまさかのザック・スナイダー「エンジェル ウォーズ」のような状況に。あれも好き嫌いはっきり分かれる映画だが、私はあのしょーもなさが割と好きなので、今作のようなツギハギの映像も楽しめた。

・CGで若返らせることへのモヤモヤは今作でも拭えなかった。出来は割と良かったが、若手のリキャストにすべきだったのではないか。インディは、例えばルーク・スカイウォーカーと比べても役者本人との結びつきが弱く、フィクション性の高い、抽象的なキャラクターだ。リバーフェニックスでも違和感はなかったのだし、リキャストを繰り返しながら永遠に冒険を続ける、でいいのでは。

・スクリーンに見向きもせずTVに熱狂する大学生の描写など、マンゴールド得意の時代に取り残された狂人の話だった。動けないハリソンフォードに代わって異性関係で苦労するヘレナ(フィービー・ウォーラー=ブリッジ)も、過去に執着するマッツも、良い感じに暴れていた。

・シリーズのテイストと明らかに反する、撃たれた人の血や、リアル寄りの遺体の描写。前作で物足りなかった老いていくインディの心境や、彼の「帰還」が話の軸にあり、脚本はこっちの方がよく出来ていると思った(1〜3と比べるのは流石に厳しいが)。

・スピルバーグは「シンドラーのリスト」以降、ナチスをネタにした映画を撮らなくなり、前作の敵はソ連になった。今作は冒頭からナチスと戦っており、スピルバーグ的にどうなん?と疑問だったが、「戦後もナチスのコスプレをする残党」が出てくるのはなるほど考えたなと思った。

・海底探査は、宝探しの定番なのに意外とやっていなかった、良い着眼点。ヘレナは「レディ・イヴ」のバーバラ・スタンウィックをイメージしているらしく、あの映画のように動物がたくさん出てくるのも良い
(インディシリーズのルーツには、男女の意地の張り合いが話を転がすスクリューボールコメディがある。レディ・イヴはこのジャンルの古典)。

・パラマウントのお約束を辞めたオープニング。シリーズの変わり目宣言?

・ハリソンフォードがこの歳で上半身脱いでいるのは本当に素晴らしいと思う

・黒人捜査官のくだり要らねー

・アルキメデスの墓の場所など、ほとんどの謎解きが口頭で進む。映像で語るスピルバーグの不在を一番感じたシーンだった。
Kuuta

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