金宮さん

愚行録の金宮さんのレビュー・感想・評価

愚行録(2017年製作の映画)
4.0
体感で年に一本は製作されているイヤミス映画の類は、とにかく絶望的な状況や人間の愚かさをいかに増していくかの大喜利のようになっており、その倍々ゲームと化している気がする。

ただ、今作はある一点で他の作品とは一線を画す印象があった。それは眞島秀和さん・臼田あさみさん・市川由衣さんなど、不自由なく生きる人たちの愚かさの描き方。

それぞれに「狡猾な女癖」「狭い世界の嫉妬バカ」「病的な独占欲」だけを見てしまいそうになるが、多分それは表だった部分。

真の愚行は殺人事件の取材における心当たりとして「社内恋愛のもつれ」「附属大学のヒエラルキー」「コネ入社のための偽装恋愛」を回答してしまう矮小さにある。特に後者2つについては、その程度の事実を直接的に殺人容疑と紐づけてしまう低俗な想像力と人間力。

取材中の妻夫木さんからは、終始「くだらない」といった表情が滲み出ているのだがそれもそのはず。見てきた地獄の質がちがうから。

ファッション的なペシミストへの皮肉は、商業的イヤミスへのため息とも受け取るのは考えすぎか。いずれにせよ「安易に悲劇を創造してしまう」発想は、誰もがやりかねない身近な愚行だと思う。その点を反面教師として学べるぶん、ただの不快大喜利よりも一段階深みのあるストーリーだと感じた。

そして終盤の怒涛。明らかとなる事実や毒親のうんざりレベルは想像をはるかに超えるもので、あの後味の悪さにはぐうの音も出ない。

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慟哭や気を衒った演出に全く頼らず、役者の抑えた演技に全てを託している。特に妻夫木さんは、イメージとは真逆の諦観や湿り気を全身から滲み出す演技によりそれにしっかり応えていた。結果として、イヤミスにありがちな「いっちょ上がり」的嫌らしさが最小限になっていたと思う。

『ある男』もそうだったけれど、石川慶監督と妻夫木さんのタッグは作品をとても誠実に仕立てる力があると思った。

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妻夫木さんがなぜあの事件に興味を持ったのか?ひょっとしたら全てを知っていて、記事にも何かしらの恣意性をもたせるため?などなどの考察ポイントも。
金宮さん

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