Kuuta

オールド・ジョイのKuutaのレビュー・感想・評価

オールド・ジョイ(2006年製作の映画)
4.3
「悲しみは使い古した喜び」。忘れ難いフレーズ。

ヨラテンゴ好き(11月の東京公演もよかった)かつ温泉巡りが趣味の私にドンピシャの内容で、美しい映像にじっくりと浸ってしまった。夜の森の穏やかさと物悲しさが映画に流れていて、アルバムで言うとAnd Then Nothing Turned Itself Inside-Outのようだった。

男2人でキャンプをし、山奥の秘湯に入って帰ってくる。ヒッピー的生活を送るカートと、出産間近の妻がいるマーク。2人の思いは明示されないが、アフターサンのような、最後の旅のような不穏さも漂う。

妻から度々電話がかかってくるマークに寂しくなったのか、「俺も電話鳴る前に注文しないと」と友達少ないギャグを挟みつつウェイトレスとの会話を試みるも、中途半端に終わるカート…。

後半、風呂に浸かった2人が一言も話さず、お湯と鳥のさえずりだけが聞こえるという心地よい時間が5分ほど続く。日本と異なり浴槽は分かれているが、カートはマークの肩を揉み、マークは結婚指輪を付けた左手を湯に沈める。

どこにも辿り着けず彷徨うアメリカ人という設定は前作「リバー・オブ・グラス」と同じ。ただ、男に小銭がないことで局面が変わり、ぼんやりと画面が白んでいった前作と対照的に、カートは一度は断った物乞いに小銭を渡して、自らの意思でフレームアウトという越境を果たしている。86点。
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