しの

ウインド・リバーのしののレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.1
銀世界は寒さの厳しさのみならず、社会からの隔絶や、逃げ場のない差別と暴力を強調する。痛みの中で自らを奮い立たせて生きるしかないサバイバル地獄。ラスト、二重の意味での「しっぺ返し」が巧い。最初はただ美しく見えていた雪山が、次第に象徴性を帯びて見えてくる。

設定や構造はまさしく『ボーダーライン』だが、本作はよりエンタメ性があり、かつ端的な印象。辺境の保留地で起こる事件の謎を解明していくミステリー調に惹き込まれるが、関わるキャラクターや事件そのものに「大きな闇」と繋がる含意があるので、明快な展開にもガツンと衝撃を感じる。

FBI捜査官が被害者の親と対面する場面が印象的。外部の視点からは気付けなかった遺族の胸中を知った時の衝撃。同様に、協力者のハンター、被害者の兄、そして被害者自身と、キャラクターに対する「実はこういう奴だった」という気付きが、次第により大きな問題を浮き彫りにしていく。

「実はこういう奴だった」演出の極致がクライマックス手前の回想シーンだ。まず、それまで死体としてしか見えていなかった彼らが被害者になっていく過程を、ここぞという時に真正面から見せることで、必死に生きようとした彼らの切実さや力強さを実感させ、更にそれを後の「制裁」へと繋げる。

同時に、気付きの衝撃は犯人らに対しても抱くことになる。どんなに凶悪な奴が出てくるかと身構えていると、実際に現れるのは本当にしょうもない奴らだ。しかしだからこそ恐ろしい。何かを「奪う」ことの連鎖が人を怪物にする。この事件は氷山の一角に過ぎない。根はもっと深いところにある。

ラスト、実話ベースの作品によくある締めのテロップだが、これがまさに「氷山の一角」であること、いやそれどころか「一角」すらまともに認識されていないという衝撃を伝える。そこでオープニング映像を顧みると、何とも言えない力強さに打ちひしがれる。最初から最後まで洗練された一作。
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