恐ろしさに震えた。
終始不穏な空気感に飲まれてしまう感覚。邦画でも時々この手の陰湿でどんよりした作品を観ると、堪らなく絶望のどん底に突き落としてくれるので好き。
町工場を営む利雄(古舘寛治)は妻の章江(筒井真理子)と娘と、会話は然程ないものの平穏に暮らしていた。刑務所から出所してきたばかりの、古い友人である八坂(浅野忠信)という男が訪れるその日までは—— 。
気付けばそこに立っていた男。
彼を招き入れた事で起こる不幸の連鎖。
浅野忠信の演技に戦慄を覚える。
物腰も柔らかく、丁寧な話し口調なのに、何を考えているのか読めない表情。底知れぬ闇を抱えていそうで、本能がこの男はヤバいと思わせる。
最初は不審に思いながらも、八坂に惹かれていく章江を演じる筒井真理子の演技もまた俊逸。前半と後半で、年月の経過を増量したのか、減量したのかはわからないが、肉体改造で臨んだ姿勢に天晴である。
淵に立っている者は、もうギリギリなのだ。
風が吹けば墜ちてしまう。
そう、それは白いシーツが風に吹かれて落ちた様に。そんな脆さがこの作品には、ある。
ある秘密を章江に突然打ち明けた利雄。
この男もまた恐ろしい。
オルガンの音色すらトラウマになりそうだ。
終盤、並んだ4人の寝姿と
中盤の写真とが一致する事。
メトロノームのリズムと、
心肺蘇生法のリズムが一致する事。
その魅せ方に背筋が凍った。
孝司(仲野太賀)も蛍も。立場は違えど、親の罪を宿命として背負わされた子供達。
たとえどんなに親しい間柄でも、誰かを家に招き入れるという事は、想定し得ないリスクがある事を世の中の家長は知っておくべき。