金宮さん

淵に立つの金宮さんのネタバレレビュー・内容・結末

淵に立つ(2016年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

かつて殺人事件で服役していた八坂は出所し、共犯者だったがお咎めなしとなった男の一家を尋ね家に入り込む。何も知らない母と娘は、一見礼儀の正しい八坂にじりじりと懐柔されていく。

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90年代後半『Focus』『ラブ&ポップ』あたりであらゆる狂気をやり切った後、『アカルイミライ』でカンスト状態になった浅野忠信さんの妖しさ。その後はそういった配役自体に二番煎じ感が出てしまい、キャスティング側も控えている時期もあった印象。そんな期間を経たうえで演じる今作の八坂は、浅野さんしかできないであろう満を持した究極の不気味キャラクター。

もはや『羊たちの沈黙』のレクター博士よろしく、画面に映っていない時間すら映画全体を支配しているような存在感を発揮している恐ろしい芝居だった。

子どもにすら敬語を使う、慇懃がすぎる浅野さんなんて不気味以外のなにものでもない。今作に辿り着く鑑賞者はもうそんなことわかりきっているので、前半パートはじわじわと追い詰められるような感覚をごく自然に追体験することとなる。邦画文脈を知っているからこそ倍増する緊張感。

一方で、紅白の配色コントラストを用いて狂気のスイッチを明確に示してくれていたりとある意味でそこはわかりやすく、海外での受賞も理解できる。真っ白つなぎをはだけて、赤色のTシャツをむき出しにするシーンは、同じ無表情なのに「あ、変わった」と完全にわかる素晴らしい演出と演技。一方で川辺での恫喝〜冗談だよ、のシーンは「どっちなの?」感が際立っておりそれはそれで怖いのだけれど。

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テーマは贖罪とそこに待ち受ける罰。ただ、父親以外が罪の意識を感じるのは多少無理があるのでは?という感覚。筒井真理子さんや太賀さんにも自己責任の感が滲み出ており、その違和感に乗りきれなかった。

一方、全ての原因は彼であろう古館寛治さんからは罪の意識というよりは八坂への恨みの方が強く見える。そもそも家族の喪失に慟哭できるほどの関心や愛情は日常パートからは感じられなかったのにも関わらず。妻に対して「俺らは共犯者」的な暴論を振りかざすところなんて支離滅裂。

それを踏まえたうえでの徹底的な不条理ラストということであれば、なるほど底意地が悪い作品として感情移入はしないけど言いたいことは理解できる。物語として納得はいかないのだけど、それこそ描きたかったことなんだろう。
金宮さん

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