JIZE

最後の追跡のJIZEのレビュー・感想・評価

最後の追跡(2016年製作の映画)
3.7
西テキサス州郊外の田舎町を舞台に銀行強盗を繰り返す兄弟とそれを追う引退間近のベテラン保安官の人生が交錯していく様を描いた犯罪ドラマ‼今年のアカデミー賞作品賞に推薦された作品です。深刻な貧困問題に切り込む社会派の毛があちこちに際立つ作品だった。原題は『Hell or High Water(=地獄か洪水か→苦境)』。いわゆるダブダブの服装に目出し帽を被った強盗二人(兄弟)の境遇を指している。彼等のバックボーンには貧困の病に蝕まれた先祖代々の連鎖がありそれを断ち切る理由で銀行側を狙うエモーショナルに働きかけた動機がある事はまずプロットの巧みさを(未公開作品ながら)実感する。開幕,田舎町の銀行(支店)を強盗が襲撃しテンガロンハットの老人が自前の銃を握り締め応戦する場面はかなりの臨場感が画面を覆い開始5分で映画の世界観へ引き込まれた。アメリカンドリームを背景にテキサス州の今がやるせなく映し出されている。全米で賞レースを勝ち抜いただけある武骨で雄大な犯罪映画。

→総評(取り残されたアメリカンドリームの影)。
西部劇やテキサスの大地をモチーフにした犯罪ドラマで内容は終始せずアメリカの地域社会に蔓延る問題(主に財産搾取や土地の強制売買など)を盛り込み"理不尽な現実性"をクライム風に完成させただけでもメッセージ性は飛びかなりの評価が見込めた。主に銀行強盗VS保安官の攻防という一定の娯楽を維持させつつ一方で時代に取り残された人物のやるせなさが雄大な風景を織り交ぜ豊かに紡がれている。テキサスの魂を絞り出し貧困の連鎖を断ち切る側(兄弟)と犯罪を抑止する側(保安官)の頭脳戦も劣らず見所である。今回Netflix独占配信という事で観たが1800円を払い劇場で観る価値は十分あり中々見逃せないサービスとなってきた。もう何度か観れば更に評価が上がる可能性もある。あと兄弟の言動が利己的でなかった事が話の争点であり作品そのものへ考えうる余地を生ませたように思う。中盤でパスポートを提示し検問所を通過する場面は心臓に悪く息を呑む。ヘッドショットなど銃撃戦はすべて現実思考で満足。例えればコーエン兄弟風でもある今年ノミネートされた異彩を放つ作品を是非お勧めしたい。
JIZE

JIZE