しの田

ありがとう、トニ・エルドマンのしの田のレビュー・感想・評価

3.0
 気まずいシーンの連発に笑うに笑えずほっこりするわけでもなく、ただ当惑のうちに映画が終わった。真顔で冗談を言って、その後も黙ったままだから、脳がものすごく混乱する…。父親の不器用な愛♡では私はとっても済ませられない
 彼女がハイクラスで生き残るために様々なものを犠牲にして積み上げてきたキャリアを、悪気なくぶち壊す父親。娘はやけを起こして自身の奇天烈な一面も繕えなくなってくる。ビジネス界も実は不合理でいい加減でできているのかもしれない。プレゼンは「個人的に」親しくするところから始まり、経済的な格差や搾取を数字が覆い隠す。問題や不合理をひたすら突きつけられ、じゃあどうすれば…?と尋ねたら冗談ではぐらかされた気持ち。
 空気も読まずにいろんなとこに潜入する父だが、娘もはっきりとは拒絶せず、周りの人も一応はちゃんと付き合ってくれる。優しいぬるま湯のような地獄。愛想笑いが最後まで続き、なにか変化や成長があったのかよくわからない。無かったのかもしれない。
 気まずい雰囲気、痛々しい演技は最高。そしてたっぷり。自分を客観視できない人間と、その指摘もしない(不誠実な)人間のドラマ、という感じ。
しの田

しの田