デニロ

わたしは、ダニエル・ブレイクのデニロのレビュー・感想・評価

4.5
消費税を10%にしなければ立ちいかなくなるはずの社会福祉関連の経費。大騒ぎした筈なのに、国民の信を問うて増税を決定した筈なのに実行しない。どうするつもりなんだろう。

街には老人が、非正規雇用の労働者が、障がい者が、待機児童を抱える母親が、貧困に陥ったこどもが、目に映らないように、隠されるように満ちて来る。

年金受給開始の年齢がどんどん先送りされる。定年制の壁で高齢者の就業は難しくなっているというのに。誰がこんなことを望んでいるんだろう。誰が頼んだんだろう。

民間企業の年金基金は崩壊状態だ。経営層は従業員の福利厚生をかんがえるよりも、勿論、株主の利益を優先する。経費削減だ。

移民のせいなのか?難民のせいなのか?

ここは日本だ。白人種以外の外国人には厳しい。トランプの思想を既に実践している。だけど貧困が徐々に浸潤している。

ダニエル・ブレイクは知り合ったケイティの困窮を見かねて手助けをする。彼女はふたりの子持ちのシングルマザーで、父親はそれぞれ違う。こどもに新しい靴を買ってあげられず接着剤で直す。こどもには毎晩ご飯を食べさせ、手伝いに来たダニエルにも振る舞う。自分はもう食べたからと、別の仕事をする。大学に復学して生活をやり直す。全部当然のことだと思っている。でもおなかが空いていて、ダニエルに連れて行かれたフリーマーケットで缶詰を分けてもらうと、我慢できずにその場で開けて手掴みで食べてしまう。そして情けなくて嗚咽する。ダニエルもケイティも生活はどんどん悪くなっていく。

人間に大切なものは尊厳だとダニエルは言う。

その尊厳を冒す者は誰だ。

大阪では行政の仕事とはとても思えない速さで小学校の許認可が下りていた。東北の人は何と思うだろう。公務員の年金は安定的だ。公務員の掛金負担分はもちろん税金だし、事業者負担分も税金だ。要件を満たせば経過的職域加算も洩れなく付いてくる。そんな彼らが世の中の優先順位をつける。先例主義で。これが日本だ。

今の厳しさを、世の中のせいにしてしすぎることはない。

ケイティの娘デイジーがダニエルに与えた一言がこの作品の解の無い解のヒントになる。そう思う。
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