けまろう

エリザのためにのけまろうのネタバレレビュー・内容・結末

エリザのために(2016年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

『エリザのために』鑑賞。カンヌの監督賞受賞作。暴漢に襲われた娘を守るために、奔走する父ロメオの物語。原題は"GRADUATION"であり、エリザを意識したタイトルでは決してない。実際、鑑賞してみての感想は「エリザのために」ではなく、「(ロメオ)自身のために」という印象が強かった。娘のために奔走するというポーズを取りつつ、結局は自己本位的な誤った手法で、娘の意思も聞かずに話を裏で進めていくロメオ。それは執拗に映される、鳴り響く電話を無視して自らの行動を優先する描写からも推測できる。
その父権的な態度は娘の意思を尊重しようとする妻と対照的であり、夫婦関係破綻の後押しともなる。事実、彼には愛人がおり、妻に家から追い出されるという結末を辿る。この家庭環境で「エリザのために」とはよく言ったものだ。最後、エリザの卒業式に出席するロメオ。娘の笑顔を撮影し、エンドロールを迎える。(シャッター音が良い具合に幕切れを演出していた)
興味深いのはBGMがオペラ中心であったのに、エンドロールではポップスの音楽が流れたことだ。クラシックからポップスへ、それはエリザの卒業とともに訪れる。
格調高いクラシックからの変化は、エリザにとっては縛りの多い(封建的な)父親からの解放としての"GRADUATION"であり、ロメオにとってもまた、娘離れという意味で"GRADUATION"を強いられるのだ。それは忍び寄る検察官の足音とともに、自己本位からの脱却を余儀なくされるであろう将来も仄かに匂わせる。
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