えんさん

十年のえんさんのレビュー・感想・評価

十年(2015年製作の映画)
2.0
2025年、香港。労働節の集会会場のある一室。2人の男が銃で 来場者を脅そうと密かに準備を進めている(「エキストラ」)。壊れた建物の壁、街に残された日用品など、黙示録の中の世界になったような香港で、一組の男女が標本を作製している(「冬のセミ」)。タクシー運転手に普通話の試験が課せられ、受からないと香港で仕事ができる場所に制限がかるようになる(「方言」)。ある早朝、英国領事館前で焼身自殺があった。見元もわからず遺書もない。一体誰が何のために行ったのか!?(「焼身自殺者」) 香港最後の養鶏場が閉鎖された。“地元産”と書かれた卵を売るサムは、良くないリストに入っている言葉だと注意を受ける(「地元産の卵」)。製作(2015年)から10年後の香港を見据えた短篇5篇から成るオムニバス映画。中国返還後、一国二制度下で揺れ続ける香港が内包する問題を浮き彫りにしていく。。

近未来の香港を舞台にした5つの短編からなるオムニバス映画。と、感想を書く前に申し訳ないのですが、本作を観る前に少々疲れていたこともあって、5つの短編のうちの最後に当たる「地元産の卵」についてはほとんど内容を覚えていないくらいにウツラウツラしてしまったので、評価としてはその作品以外の4つ(これも途中の記憶も少し曖昧ですが、、)で評価したいと思います。

作品全体を通して思うのが、どれも辛い現実の延長にあるディストピアしか描いていないというところ。問題を提起したいという意欲は買うのですが、どの作品もめっきりと暗いと観ている方も少々陰鬱になってきます。別にシリアスドラマにしなくても、コメディ調にしても問題提起はできると思うのですが、オムニバスの構成ではそれは皆無。贔屓目で見て、ちょうど作品の中盤になる「方言」だけは分かりやすいドラマになっているので、ネガティブな内容でもすっきり目で見れるのですが、オープニングの「エキストラ」と、次の非常に重い「冬のセミ」は映像トーンも、白黒や青みがかかったフィルターを使っていて、しかも話も暗くて、序盤からこの調子で大丈夫かと思ったくらいです。香港の人々の現実思考っぷりはよく分かるのですが、もう少し構成に工夫が欲しいところです。

全体がそのような感じでしたが、1つ1つの作品を観てみると、もともとはイギリスの植民地支配下の時代が長く続き、現在も1つの中国を目指しながらも、古き慣習から抜けきれない負い目のようなものが香港市民の心にはあるのかなと思ったりします。それは革命という名で弾けるようなパワーにはならず、かといって保守的に統一化への道もひた走れない。それが「エキストラ」や「焼身自殺者」で描かれるように、過激な行動を信奉しながらも、どこかそこまで押し切ることができないもどかしさとして感じられ、「冬のセミ」のように変化の乏しくなる世界の中で、自らを刺しながら標本化していくような自虐的な方向へ深淵下してしまう。それが現実には「方言」で描かれるように、新しい未来社会において適応していくものと、そうでないもののように市民の中で二分化してしまう構造を生んでしまうのかもしれません。でも、そういうことって、香港に限らず、どこでも起きそうな感じもしますけどね。。