MikiMickle

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。のMikiMickleのレビュー・感想・評価

3.6
舞台は1989年。アメリカの田舎の都市デリーという街で子供たちが謎の行方不明になっている事件が起きていた。 主人公のベンの弟ジョージーも同じように……

ベンは学校では負け犬軍団の一員。仲間は皆、レイシストのヘンリー達からのいじめを受けている。
待ちに待った夏休み。ベン達ルーザーズ・クラブは、まだジョージーが生きていると願うベンと共にその探求と冒険を始めるのだが、その一方で恐ろしい幻を見る事に…
己の恐怖症を具現化した幻……そしてピエロ…… それが彼らを襲う……


ホラー映画としては正直怖くはない。ペニーワイズのシーンなど、演出過多で笑ってしまう事も度々(笑)
子供の時に見たオリジナルの『IT』の恐怖とは、当たり前だけれど違う。当時、ティム・カイリー演じるペニーワイズは私にピエロフォビアを植え付けた。それプラス ジョン・ゲイシーというリアル殺人鬼の存在も更に恐怖となった。ピエロ怖い。
では、今回のビル・スカルスガルド演じるペニーワイズがダメだったかと言うと、決してそうではない。毎回違う登場シーンだのは楽しめたし、笑いもしたけれど、やつの目だけは不気味で… 少しズレた斜視が異様な気持ち悪さを残す。特典映像を見て知ったけれど、その斜視はCGではなく、スカルスガルドがペニーワイズに憧れて幼少期に練習して、自由に出来るとの事‼ すごい‼ (余談だが、家族や友達に斜視がいる為、複雑な気分にはなる。)

でも、やはり怖くはない。
この映画は“怖がらせる”事がメインではない。
少年少女が“恐怖に打ち勝って成長する”という青春もの。
いじめっ子ヘンリー(度が過ぎてるほどの差別主義者)に勝ち、根本的にあるトラウマと“恐怖”への克服映画なのだ。

“IT”はピエロのペニーワイズを指しているのではなく、“恐怖”そのものなのだと思う。
それに付け込んで闇の世界へと落とし込もうと企てるのがペニーワイズという存在。
この映画にはほとんど「大人」が出てこない。出てきても、それは“恐怖”の存在の要因に過ぎない。
性的虐待・異常な過保護・暴力など……
そして、それに歯向かう=恐怖への克服=負け犬の達の団結力と成長物語である。

それぞれの恐怖は時に痛々しく切ない。弟が行方不明になったベンは、その罪悪感と喪失感を毎日感じている。大人びた女の子べバリーは陰湿ないじめにあいながらも自我と強さを持っている。しかし、(暗喩な表現ではあるが)父親から性的虐待を受け、それに怯えている。見る幻が血みどろなのは“生理”=“性”への恐怖…

太った転校生は格好のいじめの的。ユダヤ教のラビの息子は聖典が覚えられず、プレッシャーに耐えている。そして、気持ちの悪い絵画の女の幻を見る。母親からの異常な過保護を受ける少年は、病的な細菌恐怖症。学校に通わない黒人少年は、屠殺への恐怖と、両親を差別による火事で失くした恐怖。そしてその理不尽な差別。

そして、それぞれそんな苦しみや悲しみを背負った負け犬ルーザーズクラブのメンバーの可愛くてならないというのもこの映画の良さでもある。
「スタンド・バイ・ミー」に通じる所も多々あり、軽口を叩くメガネ少年などコリーフェルドマンの再来かと思った。

子供が見たら、オリジナルと同じようにトラウマにはなると思うけれど、残念ながらR15。そこにモヤモヤはする。せっかく規制かかっているならもっと怖くても良かったんじゃないかなと…… 怖くはないが、良い青春映画だった。
MikiMickle

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