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映画よ、さようならの一人旅のレビュー・感想・評価

映画よ、さようなら(2010年製作の映画)
4.0
フェデリコ・ベイロー監督作。

学生時代にシネマテークで働いていた経験を持つウルグアイ出身の映画作家:フェデリコ・ベイローが、自身の映画人生の原点に立ち返って撮り上げた上映時間60分強の中編で、映画に対する愛着と郷愁に満ちた“映画愛+人間ドラマ”の隠れた良作です。

南米ウルグアイのシネマテークで25年間勤めている中年男性:ホルヘを主人公にして、客数の激減による経営悪化によりシネマテーク閉鎖の報せを聞いた主人公がバッグ片手にひとり町に出て彷徨する様子を見つめた人間ドラマで、モノクロ&スタンダードサイズのノスタルジックな映像の中に、映画を一途に愛し続けてきた主人公の落胆と人生の新たな第一歩を描いています。

今まさに閉鎖が決まったシネマテークの運営に長年携わってきた主人公による現実の物静かな受容を通じて、シネコンに容赦なく駆逐されてきた町の映画館やミニシアターに対する物懐かしさが溢れていく作品で、オリヴェイラ、エイゼンシュテイン、黒澤明…といった世界の名だたる巨匠達への言及や引用にも、主に最新映画を取り扱うシネコンではなかなか観る機会のないクラシカルな映画達に対する制作者の深い愛着を感じ取ることができます(日本では「午前十時の映画祭」で過去の名作がシネコン上映されています)。

減少の一途を辿る小規模シアターに対する弔いと郷愁の念に満ちた―“映画(館)を描いた映画”ではありますが、閉鎖によりシネマテークを去ることが決まった、映画に総てを捧げてきた主人公の儚き人生が、まるで映画の中の物語&登場人物のように希望的な変貌を遂げていく鮮やかな結末に見入る“人生再起ドラマ”となっています。

主人公ホルヘを演じるのはウルグアイの映画批評家であるホルヘ・ヘリネック氏で、役者素人とは思えないほど哀愁に満ちた佇まいで独特の存在感を示しています。また、シネマテークの館長を演じたマヌエル・マルティネス・カリル氏は首都モンテビデオに実在するシネマテークの館長を務める人物でもあります。
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