ナマステ銀次郎

ハクソー・リッジのナマステ銀次郎のレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
4.6
本当に久しぶりの投稿。
これは書かずにはいられなかった。
メルギブソン監督『ハクソー・リッジ』

もうじき戦後72年が経とうとしている現在。
兵士として戦場を経験した人の数はどんどん減っていき、当時20歳の青年は今では92歳のおじいさんだ。
本物を体験した人が現役で映画を使って戦争を表現することが日毎に難しくなり、更には直にその話を聞く機会すら失われつつある。私たちは第二次大戦の記憶を繋ぐことの出来るギリギリの世代だ。

そんな「伝え聞いた世代」のメルギブソンが我々を、擬似的にではあるが「戦場」へ強制連行するこの『ハクソー・リッジ』。
アメリカ的ヒロイズムはチラつくものの、基本的にはどちらにも寄らない表現で戦場の惨さを描いていく。

その中で「戦争の背景」は殆ど語られない。
日本人が今までどんな卑劣な行為に及んだか。
本当に絶対殺さなければならない許されざる悪者なのか。
アメリカはどんな被害を受けたのか。
どんな正義で戦うのか。
ハクソー・リッジの上でぶつかり合うアメリカ人と日本人が何故次々に肉塊になっていくのかがわからないのだ。

意味もわからずただ人が死んでいくこの映画は立派な「反戦映画」だ。
鬼気迫る役者たちの表情や恐れを知らない日本人の狂気、そして連発されるゴア表現。目に移る全てから緊迫感と恐怖が生まれ、震えが止まらなかった。

そして同時にネズミに食われていた死体の山の上に我々の平和があるのだと思い知らされた。

なんとなく戦争は怖いだとか死にたくないだとかの表層的な「嫌戦」が、必ずしてはならないと心の底から強く思える「反戦」へ変わる傑作。