九月

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーの九月のレビュー・感想・評価

4.2
J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』は未読ながら、サリンジャーが小説を完成させるまでの紆余曲折や、全編を通して描かれている彼の孤独さに見入った。

小説家や漫画家を主人公にした映画はいくつもあるけれど、その例に漏れず、才能はあっても開花させるまでの道のりは本当に長く地道で、一般人からすれば「どうしてそこまでできるのか…?」と思ってしまうことも。
しかも、時代が1939年、途中太平洋戦争の勃発で出征することになるというのもあり、夢を追うことは今以上に容易いものではないはず。その過酷さが伝わってきた。

彼の周りにいる人間も、彼自身とその才能を信じて寄り添ってくれる人もいれば、白い目で見てくる人もいる。
そんな人たちとうまく付き合ったり、寄り添ったり、また離れたりしながら書き続けるジェリーの人間らしさがとても良かった。

戦争へ赴き生還を果たした人に対して、今までは「本当に良かった」という気持ちを抱いていたのだけれど、それは待っている人、残された側の気持ちでしかないのかな、とハッとさせられた。
仲間や友人が死んでいくのを目の当たりにして、自分だけが生きていることを申し訳なく思うというジェリー。戦地での悲惨な光景は一生目に焼きついて残るのだろうなぁ…そんな苦しみと向き合う姿も映し出されていた。

晴れて完成させた初の長編小説『ライ麦畑でつかまえて』は大ヒットするが、やっぱりどんな小説や映画にも好き嫌いや賛否はあるものだと改めて実感した。
自分を重ねて入り込むこともあれば、別の人の全く違う視点を楽しめることもあり、反対に、全然理解できなかったり、挙げ句の果てには嫌悪感を抱いてしまったりすることもある。
本作では、サリンジャーの著書を批判する人物よりも、「ホールデンは自分かもしれない」と現れる熱狂的なファン(信者?)の方が怖かった。

暗くて静かなトーンで、好きな映画だった。
もしかしたらサリンジャーの怒りに同調できる若い気持ちや勢いは薄れているかもしれないけれど、『ライ麦畑でつかまえて』読んでみたい。

目が青くないニコラス・ホルトも素敵だった。
九月

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