螢

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーの螢のレビュー・感想・評価

3.0
J.D.サリンジャーが、小説家を目指し、「ライ麦畑でつかまえて」(1951)で時代の寵児となり、それ故に疲弊して厭世的に世間から離れていく様を描いた、実話に基づく物語。

作品が採用されず、何度も否定され、挫折しながらも、己の可能性を信じて狂ったように創作活動に没頭する姿。
戦争によるPTSDと、心を癒す努力。
己を投影するように長年の努力の末にようやく書いた青春小説「ライ麦畑でつかまえて」の爆発的なヒットによって世界的な名声を得たこと。
皮肉なことに、それゆえに、彼を利用して利益を得たい人々から求められ、そして、自分こそが主人公のモデルになったと信じる狂信的なファンたちから付き纏われ、疲弊し…。

何かと引き換えにもたらされる苦悩が端的に詰められた、まとまりある作品だと思います。
でも、数ある天才の栄光と悲哀を描いた実話系映画の中では、凡庸な出来で、ここぞ、という見せ場も台詞も、正直ない。

人生において、実はそれほど劇的なことは起こらないのは、数十年、平凡の塊のように生きてきた私としては、十分わかっているつもりです。

でも、たとえストーリーには起伏がなくても、映像や音楽、台詞としての文学を集めた総合芸術である映画であれば、何かしら見所が欲しい。
例えば、カメラワークにインパクトがあるとか。
色彩や陰翳の撮り方が綺麗とか。
強烈な台詞があるとか。
構成が大胆とか。
ハッとできる要素が欲しいと願ってしまいます。

そういう意味では、サリンジャーの熱狂的ファン以外にはあまり訴えることのないだろう、作品でした。
螢