風の旅人

奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガールの風の旅人のレビュー・感想・評価

3.5
「この世は舞台、男も女も役者に過ぎない」
(シェイクスピア『お気に召すまま』)

天海あかり(水原希子)という一人の魔女に振り回される三人の愚かな男たち。
コーロキ(妻夫木聡)も吉住(新井浩文)も編集長(松尾スズキ)もあかりに狂わされたというより、元々狂気を秘めた人たちだったのだと思う。
それは彼らのキレ方を見ればわかる。
あかりは彼らの潜在意識を顕在化させただけのように映った。
人は多かれ少なかれ自己を演じて生きている(コーロキが信奉する奥田民生でさえ、自然体で力の抜けた自己を演じていると思われる)。
そのことに自覚的なのがあかりであり、無自覚なのが三人の男たちだった。
あかりは『モテキ』の小宮山夏樹に似たタイプの女性。
彼女たちは決して噓をついているわけでも、悪気があるわけでもない(だからタチが悪いのだが)。
彼女たちは男の望む女を演じているのだ。
それは「自分らしさの檻」(ミスチル「名もなき詩」)の中に閉じこもる生き方とは真逆の生き方である。
「本当の自分」なんてものはフィクションに過ぎない(「天海あかり」という名前が恐らく偽名だったように)。
様々な他者との関係性の総体が「自分」なのだ。

あかりを演じた水原希子。
私は地球上の女性で彼女が一番好きだ。
彼女はいわゆる正統派の美人(たとえば北川景子)ではない。
ゴリラ顔だし、胸も大きくない。
しかし彼女が醸し出す雰囲気は私を虜にする。
大根仁監督が言うように、あかり役は彼女以外に考えられない。
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