たく

狙撃者のたくのレビュー・感想・評価

狙撃者(1952年製作の映画)
3.6
女性に対する憎悪から自分の犯行を止められない狙撃犯の苦しみを描く、エドワード・ドミトリク監督1952年作品。この監督ははるか昔に「十字砲火」を観てた(内容覚えてないけど‥)。主演のアーサー・フランツがちょっとブルース・ウィリスに似てて、そればかり気になってしまった。アドルフ・マンジューの渋さが光ってたものの、役柄的に彼である必然性をあまり感じなかった。あと、そこで終わっちゃうの?という幕切れにはちょっと戸惑った。

冒頭、アパートの建物から夜道を歩く女性に照準を合わせるエディが手に持つライフルに弾が入ってないのは、フリッツ・ラングの「マン・ハント」を連想させる。ここから絶えず苦悶の表情を浮かべるエディは自分の殺人衝動を抑えられず、狙撃に使う右手を電子コンロで焼いて強引に殺意を抑え込もうとするところに彼の良心を見るんだけど、それでも殺人を止められないというのが怖い。何かと嘘ばかりつくエディが、劇中で唯一の真実として警察に充てた「自分を止めてくれ」というメモの切実さが哀しい。

エディが若い女性ばかりを狙うのは、おそらく彼が幼少期に虐待を受けた母親像を投影してる。好意を持った女性を結果的に殺してしまうというアンビバレンツには、ヒッチコックの「サイコ」が思い浮かぶ。本作は警察組織の体たらくも強調されてて、性犯罪歴のある男を大量に集めた面通しには意味が無く、その間にもエディは犯行を重ねて行き、一向に捜査が進まないところに誰も自分に気づいてくれないというエディの孤独を見る。組織とは別に独自の視点で犯人像を絞り込んでいくフランク刑事がエディを追い詰めようとする後半がスリリングで、いよいよエディが追い詰められたところで終わってしまうのが拍子抜けした。まあこの後の展開は推して知るべしってことだよね。
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