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ベロニカとの記憶のくりふのレビュー・感想・評価

ベロニカとの記憶(2017年製作の映画)
4.5
【“終わりの感覚”を肯定する】

とてもよかった。心にぴったりフィットしました。が、原作既読者としての感想です。

原作小説は、ブンガク特有の勿体ぶり遠回しにイラついたが、ここまでポイント抑え刈込脚色したかと感心。

で、原作への裏切りとも言える、一歩進めた“エンディング”…同原題「THE SENSE OF AN ENDING」の“終わりの感覚”を変えた事、これが効いている。

原作では読後に、読者の心に“終わりの感覚”が広がることを狙いとしていますが、映画版では、進行中に感覚が積み重なり、原作とは違う“終わりの感覚”が実を結ぶ作りですね。それも大変心地よいものに仕上げています。

リテーシュ監督作としては、アイデアは前作『めぐり逢わせのお弁当』の方が断然、オリジナリティ高いですが、完成度・味わい深さでは本作の方が上でした。インドから離れたことが、かえってよかったのかな? 今後が楽しみな監督になりました。

とにかく、シルバー世代の演技が、台詞のコク含め素晴しい。ちゃんとユーモアも醸しているし。

主人公ジム・ブロードベントは、わかってない奴だが憎めない…あのドングリ眼が効いている。シャーロット・ランプリングの役は、あまり深めずシャーロット力で謎に包んだところがいい。

で、シルバーではないが、もう一人の“女伏兵”ね。あえて、そういうイメージが薄いキャスティングで、巧いなあと思った。

邦題はベロニカ推しですが、ベロニカってファム・ファタール風ヒロインに見えて、実際は狂言回しに近いんですよね。その奥に潜む真相のため、アッチの人物をああ強化したかと感心しましたよ。わかり易くなりました。

記憶の書き換えというより、これは男の“鈍感力”の話ですね。これは普遍的なものでしょう(笑)。主人公トニーにとっては、これは悲惨な出来事というより、残りの人生をより燃やす薪となったのではと思います。

<2018.2.13記>
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