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RAW〜少女のめざめ〜のMikiMickleのレビュー・感想・評価

RAW〜少女のめざめ〜(2016年製作の映画)
4.3
2016年・第69回カンヌ国際映画祭で批評家連盟賞を受賞した、フランス人女性監督ジュリア・デュクルノーの長編デビュー作品。


田舎の一本道を走る車の前に突如飛び込む姿。それにより車は事故を起こす。そして、その車に歩み寄る姿… そんなオープニングから物語は始まる。

生粋のベジタリアンとして育ったジュスティーヌは、両親が卒業し姉アレックスも在校している獣医学部に進学する。
“神童”と呼ばれた彼女に待っていたのは上級生から新入生への厳しい洗礼。通過儀礼として生き血を浴びさせられ、うさぎの生の腎臓を食べさせられる…… 姉によって…
その夜 襲う、全身の蕁麻疹。

そこから、彼女は何かが変わった…
剥き出しになる異常な食への本能……

新入生洗礼パーティーでの居心地の悪さやどぎつい色合い、髪の毛恐怖症の私にとったら飲んでたビール吐き出すような描写や、入れ歯を外してケタケタと笑う老人や、上級生からの長く続く洗礼の圧力など、随所にわたって精神的に不安感を覚えるようなものがあり、緊迫感が途切れない。

自らを“普通”だと思っていた地味なジュスティーヌは、
ルームメイトでゲイのアドリアンと、何かと反発しあう自由奔放な姉のアレックスとの信頼や裏切りや愛や嫉妬などが入り組む関係の中で、自我に目覚めていく。

従順だった優等生の彼女。肉を食べる事を親から禁止されているにも関わらず、食堂でハンバーグを盗んだのは、生肉を食べた事よりもなお、たががはずれた瞬間のひとつでもあった。白衣に入れたハンバーグのケチャップの染みは、まるで初潮の鮮血のようだった。
欲望は止まらず、生肉に貪りつくようになる。

そして、己の“異常性”に気づき、恐れるも、止めどない本能に抗えなくなっていく……
つまりは、人の生肉を食べたいという恐ろしい事実に………
葛藤と欲望の狭間で苦悩するジュスティーヌ……


原題の『RAW』(生肉)も、邦題サブタイトルの『少女の目覚め』もしっくりくる。
少女が大人になる過渡期の目覚め=性的欲望が、本作では“生肉への欲望” というものへと変換されている。
その“性的”部分とそれが絶妙に混じりあっているのが、生々しくも野性的で本能的で、ある意味で官能的で、恐ろしい。
動物の本能である食欲と性 欲が螺旋のように絡まる……

例えば、オオカマキリのメスは交尾中にオスを喰らい、ダイオウサソリのメスは長い求愛行動中にオスを殺 して食べてしまうこともある。アンコウは逆にオスがメスに寄生し栄養を吸い取り結果的に一体化する事によって繁殖行動する。自然界には人間の“普通”とは全く違う生殖行為が山のように存在する。生物とはそういうものなのだ。なんだか、この映画を見ていてそう思った。彼女もまたしかり…

そして、一筋縄ではいかない後半‼様々な感情が生み出す止めどない流れ。閉鎖的空間・狭いコミュニティーの中で、愛憎が入り交じり、衝撃的な展開と予想もつかない結末へと発展していく……
音楽においても、ジュスティーヌのめざめと共に徐々に変化していき、彼女の異常な高揚と混沌とを後押しする演出となっていた。
スタイリッシュな映像で、人間と野生、家族と群れ、抑制、目覚め、本能、欲望、憎しみと愛とが、様々なメタファーを用いて惜しみなく表現されており、釘付けになる。

私は家で映画を見終わったあとに、良い映画ほど声に出して「ほぉーーーーーーー」と長いため息をつくという事を、この映画で改めて気づいた。心に残る残像と余韻………恐ろしくも悲しい、美しい、唯一無二の青春映画。素晴らしかった。
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