ナツメグ

RAW〜少女のめざめ〜のナツメグのネタバレレビュー・内容・結末

RAW〜少女のめざめ〜(2016年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

フランス映画祭行ってきました

今作は前評判で食人描写もある過激なホラー映画として宣伝されていてそういう部分もあるのですが物語的には少し変則的ではありますが学生たちの通過儀礼的な青春映画だったと思います

主人公のジャスティンはベジタリアンで落ち着きがあり学業も親や先生にも神童と言われるほど優秀な彼女が獣医になるために両親の母校であり現在姉も通っている大学に入学します

彼女がベジタリアンの理由としては家庭での教育の面がかなりあるのですが心情的には獣医を目指し動物を愛する彼女にとって人間も動物も変わらないというのが主な理由だったと思います

そこでかなり手荒な新入生歓迎会に合い動物の血を浴びウサギの肝臓を生で食べさせるのですがそれがきっかけで彼女が変化していくという展開は個人的にここはキャリーを連想しました

ここで久しぶりに会った姉には冷たくされ自称ゲイのルーメイトが助けてくれたりするのですが
ジャスティンは環境の変化、姉の態度それらに触発され自分の心と体両方の変化に戸惑い
彼女は自分の本質を抑えられなくなり何にぶつけていいか分からない不安と怒りとともに食人に目覚めていくという内容だったと思います

この映画は比喩として使われることをそのまま表現したことが多く、最初にジャスティンに訪れた変化はまさに脱皮っと言うべきものだったり、好きなルームメイトの半裸を見ると鼻血が出ると言った漫画的表現から、彼女が本能に目覚めていった後の初体験はまさに動物のようなセックスでした

なのでここの食人とは思春期の混乱状態の中にある優秀な妹への嫉妬、昔と違う姉への不満や初めての恋愛による自分の心身の変化に戸惑い自分自身すら何を考えているかわからない不安やイライラなのに他人にはなんで自分のことをわかってくれないだという怒りをぶつけてしまい傷つけあうという心情表現であり一番大きい要素としては性欲のメタファだったと思います

彼女たちの行き場のない怒りとそれゆえの行動はコインロッカーベイビーズなど村上龍が書く小説のキャラクターを連想しました
それと特殊な状況だけれど普遍的な話としてムーンライトにも通じるものがあったと思います

そして彼女たちに決定的な破滅の瞬間が訪れその後でジャスティンが姉をシャワーで洗い流す所では姉妹のわだかまりを水に流し和解するという意味が強調されていて感動的でした

最後姉に合う時に傷を見せあうシーンは彼女たちが愛し合った証として例えると好きな人のために掘ったタトゥーを見せるような印象でとてもよかったです

しかしラストの父の見せるものは作中内でもなんとなくわかる作りになっていて必然的ではありますが
個人的にはこの物語は姉妹の話として完結させてほしいと思ったり、それなら最初から説明しておいてくれよや父のその姿を一度も見たことがないのはおかしいと思ったり自分の読み違いがあるのかも知れませんがちょっと余計だった気がしました


内容は重い話なのですがこの映画笑いどころが多くあり先輩たちが歌うどうしようもない下ネタソングからジャスティンがノリノリで鏡の前で踊ってる隣の部屋で姉たちがゲームをしていたりブラジリアンワックスなどかなりあり

それと音楽の使い方がかなり極端で彼女の心情の変化や状況を曲で表現する場面がすごく多くわかりやす過ぎて笑っちゃうようなシーンやわざとエモい感じを出していたりいい意味で中二病感がでてて面白かったです

画面構成もかなり独特でドキドキするけど妙な間延びがあるロングショットが入ったりシンメトリックな映像など普通映画じゃ見せないし、やらないような映像が多く少し違うのですがニコラス・ウィンディング・レフン監督の映画に近いと感じました


この映画の姉妹を演じたガランス・マリリアーとエラ・ルンプフの二人が素晴らしく
噛みつき合うケンカや立ちションなど体を張った演技だけではなく思春期特有の怒りと嫉妬にまみれた表情やそれをからかい妙に挑発的な態度だったりそして二人が分かり合えた時の表情などどれも最高でカッコいいし美しいけれどダサい所もある複雑なキャラを演じて今後の出演作も見てみたいと思わせるものでした


初の長編映画とは思えないよな独特だけれどうまいバランスで作られている映画で
話としては思春期の三角関係といった普通の内容なのですがそれを比喩的に表現するだけでなく姉妹の絆としても感動的でクロニクルのような悲しいけれど甘酸っぱい物を感じたりすごく好きな映画となりました

それとわからない部分も多くあったので日本で全国公開されたときにはもう一度劇場で見てみたいと思います
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