ちろる

浮雲のちろるのレビュー・感想・評価

浮雲(1955年製作の映画)
4.0
出来もしないタラレバをつい口に出して、女に未来を夢見させちゃう罪はほんと重いのに・・・
正直この富岡のどこがいいかちっとも分からないのだが、何も知らない異国の地でちょっかいだされて巻き込まれてしまった恋は厄介なもので、ムカつきながらも心はズルズルと離れなれない。
平たく言えば単なるメロドラマ風の内容なのだけど、これが成瀬監督の手にかかればこうも重厚感のある「芸術」になるのだと唸ってしまう。
ゆき子と富岡と並んで歩くシーンが何回かに分けて似たようなアングルで映し出される。
その都度2人の関係性は異なっていくのだかど、ゆき子の気持ちはやはり富岡だけを見つめている。
鬱々とした満たされない時間を過ごしても、ゆき子の心が納得するすべは富岡とつながる事以外ない。
これが運命の恋だというならば神様は残酷すぎるのではないか?
ずるいとこばかり沢山あって嫌なところばかり目につく。
好きだから憎い、憎いのに好き。
ねっとりとずっと纏わりつくような高峰秀子さんの演技が、まるでこの時代に不遇な人生にさらされた全ての女たちの怨念を背負うように重々しくのしかかってくるようだ。
「花の命は短くて、苦しき事のみ多かりき」
ラストはなんだかフェリーニの「道」にも通じる遣る瀬無さだった。
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