MasaichiYaguchi

ニコラス・ウィントンと669人の子どもたちのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

4.0
テロや悲惨な事件がテレビや新聞等で報じられているこの頃、世の中は悪意で満ちていると感じてしまうが、この作品を観ると心洗われて癒され、希望が沸々と湧いてくる。
本作は“イギリスのシンドラー”と呼ばれたニコラス・ウィントンと、彼によって救い出されたユダヤ人の子ども669人の実話を描いたドキュメンタリー。
ある日、友人とスキーに行く予定だった彼が、一本の運命的な電話により“匿名のヒーロー”になっていく。
彼が行ったことは〈キンダ―トランスポート〉と呼ばれる、ユダヤ人の子どもたちを安全な国に疎開させるという救出作戦。
一介の証券マンでしか過ぎなかった彼が、国の支援も無しで“ミッション:インポッシブル”なことをどうやって実行していったのかが、プラハとロンドンを舞台に当時のヨーロッパ、特にナチスに追い詰められていくユダヤ人の状況を踏まえ、その事に対するニコラスの思いが意志となって反映していくプロセスを再現ドラマを交えて分かり易く描かれていく。
世界大戦の足音が迫る中、ニコラスが証券マンとしての才能を活かして一刻を争う救出作戦を敢行していく姿に感動を覚える。
彼の強い意志による匿名の善行は50年の時を経て、ある切っ掛けで世間に知れ渡ることになる。
ニコラスは名誉や名声の為に一身を投げ打ってこのような救出作戦を行ったのではなく、彼にとって人として当然のことをしたまでのことだったのかもしれない。
このニコラスの見返りを求めずした行為は、静まりかえった広い湖面に一石を投じたように大きな波紋を作っていく。
この善意の波紋は、国や民族、人種や言葉の壁を越えて広がり、それが連鎖していくのを見ていると心揺さぶれ、目頭が熱くなります。