ダンクシー

聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディアのダンクシーのレビュー・感想・評価

3.3
「先生は僕の家族を1人殺した。だから家族を1人殺さなければならない。誰にするかはご自由に。もし殺さなければみんな死ぬ。ボブもキムも奥さんも病気で死ぬ。1.手足の麻痺 2.食事の拒否 3.目から出血 4.そして死」

とても難解な作品、というより意味が分からない要素が多い。でも、中盤から一気に押し寄せてくる気持ち悪さと不安が良かった。流れが急に変わる感じ、大好きっす。マーティンに何か秘密ありげな感じは序盤からずっとあって、"マーティンって一体何者なんだろう?"、隠し子かな、不倫相手の子供かな、という感じで関係性を予測していくんだけど、分かった時に頭おかしいなコイツってなって怖かった。人間って怖ぇーよ!!人間怖すぎや!!!
てか重低音・不協和音が好きだよな〜この監督。

簡単にこの映画を説明すると、家族同士で誰を生贄にするか決めるお話。はい、ヤバいよね。狂ってるよね。不条理極まりない設定だ。まさに選民思想。優秀な人間を生き残らせようとするのと自分が何としても生き残ろうとするあの感じ、人間味をとても感じました^^

さてさて。"アウリスのイピゲネイア"という神話をご存知だろうか。聖なる鹿を殺したので罪の償いとして娘(イピゲネイア)を生贄に捧げる、というお話なんですが、鑑賞前に知っておいた方がいいらしい。実際劇中のセリフで出てきますしね。でも俺は正直こんな話知ったところで変わらんと思いますけどー。。

「彼女の"イピゲネイアの悲劇"に関する作文はAプラスの評価を得ました」

まず、人間の醜さってのがじっくり丁寧に描かれていた。
妻のアナに関しては、母親ならば"子供のためなら自分が犠牲になる"と言うはずなのに、自分が死ぬとは1回も言わなかった。ましてや、スティーブンに1人選ぶなら子供で私達ならまだ子供を作れると訴えかける。自分の命が大事なのだ。さらに裏ではこっそりマーティンの手当てをして、床に這いつくばって彼の両足にキスをする。それでもマーティンに助けてもらえないと分かった途端すぐにスティーブンに寝返り、彼の好きな黒いドレスに着替えたいと言い始める。恐ろしいほどのがめつさ。

そして娘のキム。彼女が1番マーティンに媚びを、自分を売っていた。終盤には私を助けて、一緒に逃げようと必死に懇願するほど。キムもマーティンに助けてもらえないと分かると這いつくばりながら逃走を図る。しかしスティーブン捕まると一転、みんなの為に自分が死にたい・殺してとアピールする。そんな訳ないのだが、こんな良い娘を殺していいのかと同情させる逆命乞いを必死にしてのける。ボブが目から血を流している時に、あんたが死んだらあんたの音楽プレーヤーをちょうだいと言ってしまう鬼畜野郎だ。恐るべし。

息子のボブだけは、マーティンに屈さなかった。しかし、伸ばしていた髪を切って、庭に水やりをしようとする。そしてスティーブンに本当は眼科医ではなく心臓外科医になりたいと言う。母親に気をつかっていただけ、パパの仕事がいいと父親に対する愛を告げる。純粋なボブでさえ、とうとう命乞いをするのだ。でも俺には死期を悟ったボブの最期に本音を伝えたいという愛と命乞いの両方に見えた。いいやそうだ、間違いない!
もうね、俺がスティーブンならたまらんね!!

全員が生き残るためにアピールし命乞いをする地獄絵図。当然スティーブンは外で号泣するシーンがあった。耐えることなんて出来るまい。しかしスティーブンも中々に恐ろしい。優しいようで実は誰よりも冷たい男。アナが言葉と体に温もりを感じないと言っていた通り。事実、自身の子供が通う学校に赴き、先生に「どちらが優秀ですか?1人選ぶなら」という質問をする。人間は極限まで追い込まれると優秀な方を選ぼうとする。。もうこの辺はどうしようもないんでしょうねぇ。

ラストの表情、想像が膨らむ。"見ろ、やったぞ"というアピールなのか、警告なのか、生き残ったことへの喜びなのか。スティーブンやマーティンは何を思い何を考えているのか。正解が見つからない。ひでぇ話だけど、面白いなぁ。。


今作は脇毛とかのちょっぴりお下品なユーモアだけが唯一の救いだったな。
あと広角の多さといい、キューブリックもどきとか言われてるけど、たしかに分かる。でも俺的にはどっちかと言うと黒沢清っぽいとも思った。奥行の描き方とかね。まぁランティモスさんは黒沢清なんか影響受けてる訳ねぇんだろうけどさ笑
それと、アナだけなぜ呪いにかかっていなかったのか、呪いの正体は一体何なのかが全く分からなくて無理ゲー。もうこの辺はどう足掻いても答えは見つからないから、諦めっすね。映画としてのストーリーを展開させる・面白くするためだけのピースに過ぎないのかもしれませんし、観てる側もそう割り切るしかないのかもしれませんね…
ダンクシー

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