耶馬英彦

22年目の告白 私が殺人犯ですの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

4.0
 何を書いてもネタバレになりそうなのでストーリーには触れない。設定は予告編の通り、殺人の時効から5年を経過した段階で真犯人が名乗り出るというものだ。なかなか興味深い設定で、何故そうなったのか、これからどうなるのか、目を離せなくなる。

 藤原竜也はやっぱり演技が上手だ。蜷川幸雄という演出家がどうにも好きになれなかったので、弟子筋にあたる藤原竜也も色眼鏡で見てしまっていたが、彼は演出家の指導よりも前に独自の世界があるようだ。そのため蜷川幸雄の世界に捉われることなく、彼自身の演技を貫いている。
 しかしそれは、ともすれば両刃の剣となる。役者が独自の世界で演じると、どんな役を演じても同じような演技になってしまう場合がある。それがもろに出たのがキムタクで、藤原竜也も同様の結果に陥ってしまう危険性を孕んでいる。
 この映画での演技は、弱さと決意と執着の危ういバランスで生きている主人公を上手に演じていた。演じる人を演じるという意味で大変難しい役柄だ。その綱渡りのような生き方を微妙な表情で表現し得ているところが演技の上手なところだ。この先さらに演技が磨かれれば、自身の世界観を保ちつつ、作品の世界観を表現できるようになるかもしれない。
 伊藤英明は作品の世界観によって全く違った演技をする。爽やかな熱血漢から気持ちの悪い役柄まで、上手にこなす。本作でも、一見むくつけき刑事に見える武骨な男が内に苦悩を秘めているのをうまく伝えていた。

 ストーリーは一時期の江戸川乱歩の小説のようだ。観客はしばらく真相が読めず、一方で思わぬところで思わぬ人物が思わぬ行動をとる。早乙女太一の役柄がそれだ。
 テレビでよく見る街頭インタビュー風のシーンや、ニコニコ動画の使い方もうまい。よかれ悪しかれネット社会で起きた事件なのだ。必ずSNSなどで拡散される。本作では、ネットの情報が一向に真実を捉えていないことも表現されている。ネット社会は上辺だけしか見ない、思考停止の社会であることもアンチテーゼとしているのだ。

 プロットも役者の演技もいい、上質なエンタテインメントである。
耶馬英彦

耶馬英彦