ちろる

ギフト 僕がきみに残せるもののちろるのレビュー・感想・評価

4.0
filmarks試写会
NFLのスター選手だったスティーブ グリーソンが突然ALSを発病し命のリミットと同時に夫婦に新しい命の誕生が同時に訪れるという人生の皮肉。
観る前は、ALSという逆境に立ち向かう夫婦と家族の溢れる愛に感動して号泣するのかと思っていたけれど、この作品を観ながら流したのは、思っていた類の涙とは違っていた。

よくある難病と戦う患者やその家族を勇者のように盛り上げるだけの感動ドキュメンタリーとは異なり、身体能力抜群のスター選手からALSの患者となったスティーブを、そしてそれを支える家族の生々しい戸惑い、苦悩、苛立ちも包み隠さずに伝えてくれているし、決して美談では語れないALS患者のリアルな生活がそこにはあった。

因みに私は奥さんのミシェル目線で見てしまうわけだけど、無邪気で自由そのもので笑顔ばかりだった彼女の顔に涙に暮れる日が増え、疲れたり険しい顔になっていく姿は観ていて辛いけど、どんなときも自分を見失わず、聖人じゃなく人間でいたいと語った彼女の目は印象深い。

数ヶ月刻みでじわじわと、少しずつ身体の自由が効かなくなるスティーブの姿が映し出される映像はとても残酷だけど、病が進行すると同時にどんどん成長していく息子リヴァース君のとびっきり無垢でかわいい姿が時折笑いを誘うので、スティーブからは苦悩だけではなく、幸せを噛みしめる父親らしい優しさに満ちた表情が垣間見える瞬間があるのもこの作品の魅力の1つなのかもしれない。

ヒーローでありたいと語った彼はやはり羨ましいほどに精神力が強く、生きる気力に満ちていたけれど、そんなかっこいい姿だけではなく、時にプライドが切り刻まれる思いをしたり、なかなか噛み合わない父親に本音の怒りをぶつけたり、ミシェルの心が心配で仕方ないスティーブのその弱さすべてを曝け出して伝えるその姿はやはり父から息子への「愛のギフト」だし、これはやっぱり家族の愛のドキュメンタリーなんだと思うと、なんだかあったかい気持ちで試写室を出ることができた。
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