えんさん

ラストレシピ 麒麟の舌の記憶のえんさんのレビュー・感想・評価

2.5
絶対味覚を持つ料理人・佐々木充。彼はクライアントの依頼に応じて、思い出の味のレシピを掘り起こし、その味を提供することを稼業としていた。しかし、彼はもともとは至高の味を追求してきた料理人。その厳しさから自らの店を廃業に追い込んでいた。そんな中、彼にやってきた依賴は、日中戦争前後の歴史の闇に消えた究極メニューの復元しろというもの。巨額な報酬のために、その謎に挑んでいく。一方、1930年代、そのレシピ作成に人生を捧げたのは、天才的な舌を持つ、天皇の料理番・山形であった。。田中経一の同名小説を、「おくりびと」の滝田洋二郎監督が「母と暮せば」の二宮和也主演で映画化した作品。

ご存知のように、映画というのは映像を見て、役者の台詞や音楽を耳で楽しみ、その物語を鑑賞していくもの。4DXという独自の演出方法が出てきて、ドライビングや雨風などの触覚部や、爆発臭などの嗅覚部の表現にも取り組んでいる作品というのもないわけではないですが、やはり映画の中では未だ異端なところの色は抜けてない(評価しないというわけではなく)のかなと思います。その意味で見た目や音だけで食欲を誘う作品というのもいくつかあります。近作では「かもめ食堂」であったり、「シェフ 三つ星フードトラック始めました」などの作品が挙げられますが、作品のテーマとして料理を扱う本作も負けてはいない。幻の「大日本帝国食菜全席」だけではなく、実際に山形の厨房で作られているまかないであったり、現代パートに描かれる中華料理屋であったりするところまで、料理の色と立ち上る湯気だけでも美味しさが味わえます。これはお腹が空いた時には観ていけません。

実際に人が生きていく中で、食というのは重要な生の営みの1つ。30代も後半になってきた頃から、未熟ながらも料理はしっかりするようになったし、外食をするにしても、安くてお腹が満たせればいいといったファスト的な食事をしてた20代のときとは違って、そんなに高くはないけど、しっかり美味しいものを食べたいなと最近は思ってお店を見つけたりしてます(まぁ、牛丼も、ラーメンもいいんですけど笑)。やっぱり自炊にしろ、外の食事にしろ、不味い料理を食べると、人生の大事な一食を損したという残念な気持ちになります。食材、レシピ、そして料理する人と、完璧でなくとも、うまくアンサンブルが整った素敵な食事を毎食食べたい。本作に出てくる料理人たちは、天才料理人の山形にしろ、黄金の舌を持つ佐々木にしろ、その他の料理人たちにしろ、そうした食の喜びを分かり、追求している人々という真摯な描き方が、出て来る料理を美味しく見立てているといってもよいかと思います。

ただ、話の根幹にしている食にまつわるミステリーが、いかんせん話がうまくまとめすぎという感じもしないでもないです。偶然が重なりすぎでしょという裏には、しっかりとした綿密な企みがあったにしろ、話がやっぱりうまく出来過ぎ感が否めません。満州、中国、日本を行き来する物語でも、なんかVFXが上手くなく、物語を展開する空間の使い方がいささか安っぽいのも否めません。お話的にはいいし、出て来る役者の演技力も卓越しているだけに、残念なところです。