ロックミュージシャンのドキュメンタリー映画のようなイメージは、激しいドラムパフォーマンスの冒頭から程なくしてあっさりと覆る。ものっっっすごい繊細な作品である。
くぐもった生活音、人工内耳のシャリシャリとした金属音、そして無音。緩急が巧みな音響効果もすごいけど、同じく素晴らしかったのは、主演男優。困惑、怒り、悲しみ、諦め、失望、そしてほんの少しの希望。それらが一つだけじゃなく、いっぺんにドゥワーッと滲み出るようなあの表情は、言葉よりも音よりも、何よりも雄弁だった。
ちなみに、彼女の父親役でいきなり登場して「君のことは嫌いだったんだけどねえ」と言い放つ名優マチュー・アマルリックに、ちょっと吹いちゃった。