なんと自然で繊細な描写なんだろう。ドキュメンタリー映画を見ているのかと思ってしまった。
突然耳が聞こえなくなるというのは本当に恐怖だと思うが、音を聞くという機能がキャリアとして大変重要となるバンドのドラマーにとってはまさに地獄へのチケットを突きつけられたような思いだろう。怒り、葛藤、不安に苛まれる日々で精神が参ってしまいそうな…
そんな主人公ルーベンの難しい役柄をリズ・アーメッドが各局面で見事に演じている。表情や佇まいがとてもリアルで、なんといっても目力がハンパない。
音が聞こえないということがどんな感覚なのか、ルーベンを疑似体験出来る画期的かつ挑戦的な音響シーンを多く取り入れている。これも本作の大きな特異性の一つだろう。
そして恋人との関係を含め自分自身を見つめ直し、静寂のなか余韻を残した終わり方は新たなスタートを予感させるのだが、この時のアーメッドの表情がとても印象的。
総じていい作品に仕上がっている。