風の旅人

レッド・スパローの風の旅人のレビュー・感想・評価

レッド・スパロー(2017年製作の映画)
4.0
スパイと俳優は似ている。
どちらも演じることを常態とし、自分以外の何者かにならざるをえない。
当代きっての演技派女優ジェニファー・ローレンスは、これまで様々な難しい役をこなし、その度に「別の人生」を生きてきた。
そしてついにスパイを演じるに至った。

ボリジョイ・バレエ団のプリマ・バレリーナのドミニカ・エゴロフ(ジェニファー・ローレンス)は、演技中の事故で脚を負傷し、引退を余儀なくされる。
病気の母親の治療費を払うことができず、窮地に追い込まれたドミニカは、ロシア情報庁の副長官である叔父に頼る。
叔父のワーニャ(マティアス・スーナルツ)はドミニカをスパイ養成所に送り込む。

スパイ養成所の教官がシャーロット・ランプリングで、『愛の嵐』を思い出してぞくぞくした。
この鬼教官の「人間の欲望はパズル。欠けたピースを見抜き埋めてやれば、相手を操れる」という言葉が物語のキーになる。
スパイ養成所でドミニカは心理操作の術を学んでいく。
しかしそれが実戦で役に立ったかと言うと微妙で、スパイ同士の心理戦を描くというよりは、望まずしてスパイにならざるをえなかったドミニカの人生に重きが置かれていた。
したがってストーリーに捻りはあるものの、どんでん返しのような「驚き」はない。
またスパイ映画でありながら、アクション・シーンは少なめで、『アトミック・ブロンド』的な派手さもない。
濡れ場や拷問シーンが多く、ジェニファー・ローレンスの体を張った演技に圧倒される。
スタイリッシュとは対極の硬派なスパイ映画である。
惜しむらくはロシアの話なので、英語ではなくロシア語を話してほしかった。
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