垂直落下式サミング

アシュラの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

アシュラ(2016年製作の映画)
4.0
公権力の頭頂点の座に居座るためならどんな手段をも厭わない凶悪な市長の悪行の後始末を行うことで、利権のおこぼれにあずかり、汚れ仕事でカネを貰っている汚職刑事が、ついに検事に尻尾を捕まれてしまったことで二重スパイのような状況に陥ってしまう。引くに引けぬ板挟みとなった男の顛末を描く。
韓国で二枚目俳優として高い人気を誇るチョン・ウソンが、権力と癒着して腐っていく刑事の役に挑戦した意欲作。しっかりとした演技派が揃うことで、真っ当に良質なモンに仕上がっている。
悪の市長のファン・ジョンミンが、過剰なほどめっちゃ悪いのがいい。こういうヒドイ政治家いるかもってラインを軽く飛び越えて、こんなヤツがいたらこの世の終わりってぐらい悪いヤツで救えない。検事役のクァク・ドウォンさんも、似たような役で出ているのをよくみる役者さん。実力派だ。
目を引くのは、カメラが運転席を撮しながら廻りだしてぐるぐるし始めるカーチェイス!これ、どうやって撮ったんだろう?
肉弾戦や権力闘争における醜い欲望が発する熱と、胸が苦しくなるようなヒューマンドラマとが往き来。血の気の多いアクションでヒートアップしたところで、人の愚かしさを憐れむような冷静な眼差しにたち戻ることで、俗悪さと人間臭さとがいい塩梅で同居している。
本来は善良に生きられたハズの人が、自ら道を踏み外すときは、たいていが家族だとか、愛する者の為。悪党の最後の人間性を象徴するのが、「女」と「兄弟愛」というのは、ありきたりながら本質でもある。
自分よりも悪辣な存在となった兄弟を、我が手にかけるは下郎の道。さらには、泣きだしそうになりながら命乞いする女子まで平然と殺されちゃうのが最高にハード。権力と暴力の戦いは、男の世界ですから。おすましエリートだったくせに、情けない姿をさらして呆気なく死んでいく姿にエロスを感じる。
もうだめだと思ったら、僕も上司の前でコップをバリバリ食べて口から血を流そうと思う。仁義の墓場、大阪電撃作戦、盃食いの熱き血潮の遺伝子は、海を越えて…!