安琦

君の名前で僕を呼んでの安琦のレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
4.5
イタリアを知り尽くした監督が、きれいに撮るってことには右に出ないカメラマン連れて来て、いい役者をそろえて、そりゃあ、きれいな映画ができるのは間違いないわよね。って思ってた。機内で見た一度目、風の音、光、夏の恋、予想通りで、だけどそれだけで、実はエリオのママ目線で私は思っていた。オリバー、お母さんあなた許さないんだからね、って。だけど二度目見たら180度変わった。そういう映画じゃない。これは、子どもから大人になるある夏のひとときを描いた映画に見せかけて、大人にならなければならなかった一人の男の愛と喪失の物語でもあるんだと。
エリオに目を奪われていると↑には気が付きにくい。映画はとてもうまく作られているのでみんながエリオに感情移入をしてしまう。素晴らしい劇伴はまさにエリオの心そのもの。最初のソナチネは長調、黒鍵使わない単純で踊るような旋律から悩む短調へ。メロディも音もどんどん複雑になっていく。
一方オリバー、彼は劇中自分で「写真には納まりきらないんです」って言いますが、そんな感じでうまいこと画面には収まってない。前半のアップなんてすごく少ないんです。後半になって思いが顕在化してくるとやっと少しずつ見えてくる彼の顔の切ないこと。だけど、肝心なパンツのシーンや駅、電話など→ひとつも彼の顔は映らない。
オリバーがエリオの後を常についていくシーンだけが印象的。小さな町のユダヤ人として育ち、今まさにキャリアを築こうとしている男と、picciniとかerryberry?ってかわいがられ守られている17歳、その関係に飛び込むには勇気がいるのはどっちかは明らかなわけだから。
奔放でいることを許されている17歳にはこの後へと希望が残される。最後の数分で見せたシャラメの表情はまさにその変化を感じさせるようなものだった。だけどきっとオリバーはこの後ずっと傷を背負って生きていく。化膿した彼の脇傷の名残りは一生彼を甘い気持ちにもさせ苦しめもするでしょう。エリオ世代から一周回って見ているので、エリオといっしょに泣けない自分がちょっと寂しかった。ああやってみんなの前で泣いて迎えに来てって言えることの幸せというのは、振り返って考えるととても貴重なものなんだな、って。
ティモシー・シャラメは逸材ですね。ラストの表情の変化、まさに子供だった僕が大人になる瞬間、を捉えたところは必見。デビューしたてのころのデカプリオの演技のすごさを思い出した。
安琦

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