雨

君の名前で僕を呼んでの雨のレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
4.5
あまりにも自然な恋、あなたは私の一部


1983年、北イタリア。健康的な男女がTシャツと短パンで自転車を漕ぎ、川で泳いで日光浴をする。青い空に気持ちよさそうな水辺、降り注ぐ日光。ここには日焼け止めを塗る人もスマートフォンを見つめる人もいない。この文明的にも健康的にも豊かで心地よい生活の様子が、この映画の持つ一貫したスローな雰囲気を演出する。
そんな雰囲気に溶け込むのが主人公エリオを演じたティモシー・シャラメ。彼の演技が素晴らしい。原作はまだ日本語訳がされていないが、綺麗な英語で綴られるオリバーへの苦しくも甘い、ハッと息を吐くような、擦り切れるような恋慕を、一切のモノローグ無しで見事に演じきっていた。言葉はなくとも、目線で、表情で、彼への気持ちが絶妙な温度で伝わってくる。
この映画に描かれる恋愛は、非常に綺麗ではあるがごく自然だ。好きな人に冷たくされれば辛い。距離をおいたり、別の人に気持ちが向いたり、でも本命に振り向いてもらえばそっちに興味はなくなったり。全くひどい話で、誰の胸の内にもある話だ。だからこそ思いが通じた間の二人の温度があまりにも印象深い。美しく、綺麗で、可愛らしい二人の男の描写の数々。だからといって突飛な事をするわけではない、自然な愛情表現に、自然な恋。きっと誰もが知っている恋。北イタリアのこの優しい町では、彼らの恋は当たり前に存在した。“Call me by your name.” 「君の名前で僕を呼んで。」スペインの諺にオレンジの片割れというものがあるが、心の底から恋をしたなら、きっとその人は私の一部だ。
恋愛は我儘が許されるべき唯一の場だ。気持ちだけはもうどうしようもない。エリオもオリバーも、互いを、誰かを、傷つけたし、傷ついたはずだ。それでも痛みを超える何かを、きっと人は知っている。最終カット、あの数分の素晴らしさについては言うまでがないだろう。あのロングカットが、恋だ。
雨