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ションヤンの酒家(みせ)のtakのレビュー・感想・評価

ションヤンの酒家(みせ)(2003年製作の映画)
3.2
名作「山の郵便配達」のスタッフが撮った作品。「山の郵便配達」は普遍的な家族愛が描かれ、山間部に暮らす地味な生き方だけど、地に根ざして頑張っている人々への応援歌のような映画であった。本作の舞台はガラッと変わって、長江中流に位置する都市チョンチン(重慶)。主人公ションヤンは屋台の女主人。兄夫婦からは子供を押しつけられ、弟は麻薬中毒で施設入り、弟の彼女の面倒をみて、さらに家族のものだった家を取り戻そうと必死。自分は離婚して以来、金勘定と鏡に映る我が身を見て過ごす毎日。やがて彼女に惚れている中年男性と親しくなるのだが…。地味ながら一生懸命に生きる人の姿が心に残る映画だ。

ションヤンの行動は時にズルいと思えるくらいにしたたか。家を取り戻すために役人に取り入り、その息子の結婚まで面倒みてやる。世話を焼いているようで実は自分の望む方向に導いている。だけどそうでもしないと生き抜けない真剣さを観ていると、次第に彼女を応援している自分に気づく。懸命に取り戻した家に弟は感心を持たないし、ションヤンの名義になったことで兄夫婦は面白くない。しかも身を任せた男は、彼女の気持ちを理解してくれない。弟のいる施設に向かうロープウェイは濁った大河を横切っていく。自分の思いと現実の大きな隔たり。それはその大河のように目前にあり、決してその隔たりを埋めることはない。

人生はままならぬもの。それでも頑張ってしまう自分。あきらめと自嘲が混じったようなラストの涙は見終わってしばらく心に残る。タオ・ホンの熱演あっての映画だ。
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