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こころに剣士をのsayuriasamaのレビュー・感想・評価

こころに剣士を(2015年製作の映画)
3.8
戦時中のナチスドイツ、戦後のソ連に翻弄された小国に芽生える小さな希望

昨年末に年納めの鑑賞だったのに、レビューが今更になってしまいました。しかい、心に残っているので記録します。

この映画の舞台はエストニア。主人公エンデルは第二次世界大戦中はドイツ軍に従軍していたものの、その後エストニアはソ連の支配下に。折しもソ連恐怖政治の真っただ中のせいで、彼の経歴ではシベリア送りになってしまう...という設定から始まります。
そして、彼は身を隠すために教師として働くこととなり、ひょんなことからフェンシングクラブを設立します。
実話ベースの映画ですが、話の展開はやや強引なところが目立ちます。
例えばソ連内のフェンシング大会で、モスクワやキエフの名門校相手に電気式の剣をその時初めて使って勝利する...という展開はスポ根映画としてはベタですが、勝てるほど練習はしてないような?(実際子供たちは古びた普通の剣で練習していました)
しかし、この映画の見どころはそういったところではなく、「フェンシング」というスポーツの持つ精神性がエンデルや子供達を変えていくところが見どころです。
映画の中でエンデルは「フェンシングは相手との距離をつかむことが大事だ」と言っていたことが印象的です。このフェンシングの極意、そして相手に一対一で戦うスタイル、このフォーマットが秘密警察から逃げるサスペンス感を高め、また苦しみにどこかで対峙し、どこかで受けいれて戦わなければならないことを暗示しているようで非常に効果的でした。

エンデルは最強のヒーローではないけれど、苦しみながらも自分の運命にに真に対峙し、乗り越えた人物として描かかれています。でもそんな人こそ真のヒーローなのではないか、静かに心打たれた作品でした。
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