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牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のKAJI77のレビュー・感想・評価

4.7
遂に観ることが出来ました!台湾映画界の巨頭、エドワード・ヤン監督による超大作青春映画、『牯嶺街少年殺人事件』(1991)を鑑賞しました!

私事ですが、世柄もあってアルバイトでの仕事をかなり減らされてしまい、代わりに膨大な時間が授与された訳ですが、こんな時こそ前向きに、時間を取らなきゃ観られない大作に手を出すべきと思い、鑑賞した次第です!約4時間は普段の生活の中では中々切り出せない…。

しかし、長編には長編であるだけの理由が必ずあります。そこからその意義を感じ取られるか否かというのは個人の感性の問題にはなってきますが、僕はこの作品に無駄な描写は全くと言っていいほど無いと思いました。どこをトリミングしても美しい作品なので、「単に長いから」という理由で忌避してしまうのは勿体無いです。それだけ観る価値がある一本でした…!

今作では、「死に急ぐ時代」と「生き急ぐ少年少女」が、光と闇のなんとも情緒的で趣深いコントラストによって自然に演出されています。こんなにも熱く激しいのに、何故だかメロウで儚くとても切ない。この2つの側面を同時に包含できる唯一のもの、それこそが「青春」なのです。彼らが過ごした「春」とは、いわば「一年草の春」。冬を越すことは出来ないと知っているからこそ、彼らは、そして観客である僕ら自身も、「春」をとても大切に扱い、二度とは来ないその淡い季節を愛おしむ。なんと人間らしい美学なのでしょうか…!『牯嶺街少年殺人事件』は、そんな若者の等身大の「春」をありのままに描き上げます。

この作品を観ていて自ずと喚び起された僕の好きな詩があるので、少々長いですが、レビューの最後に是非紹介させて下さい。
素人の大雑把な訳出にはなりますが、以下、イギリスの文人、ロバート・ヘリックの『水仙に』という詩の一節です。

「 ああ美しき水仙よ。
お前達が忙しく去ってゆこうとするのを見ると、
涙が溢れてくる。
陽は昇ったばかりで、昼もまだ彼方にある。
だから、どうか待っていてくれ。
あのてんてこ舞いの太陽が、大空を駆け抜けて、
夕方の祈りの時が来るまでは。
どうか、どうか待っていてくれ。
そうしたなら僕らは、
お前達と共に祈りを捧げ、
暗闇の中に、永遠に消えてゆこう…。 」
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