ラグナロクの足音

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のラグナロクの足音のレビュー・感想・評価

4.3
舞台は、1960年代初頭の台北。男子中学生スーと少女ミンを巡る淡くしょっぱい(てか辛い)恋の顛末を見事なまでに叙事的に描いた。軽々しく青春ドラマだとはいい難い重さがある。10代というのはなんとも脆くそして危ない年齢であろうか。世間を知っているともいえずかといって常識を知らないともいえない。一歩間違えれば死んでしまう雛のような存在だ。スーとミンもまさしく孤独をおそれる雛に違いない。しかしそんな雛を箱で包んであげられるほど、当時の台湾社会は優しくない。不良抗争、家庭問題、虐め、社会の抗おうと思っても抗えない様々な「どうしようもなさ」に彼は追い詰められていく。そしてその負の蓄積が心の器から零れ落ちてしまった時、スーは暴走しはじめる。唯一自分の側に立ってくれる存在としてミンのことを「ミンを守れるのは自分だけだ」と喝破するも、そんな一方的な想いに戸惑うミン。男子より女子のほうが精神的な成熟が早いというがスー目線に立てばここでの描き方はかなり辛辣だ。表面にみえるほど心の距離は近くない。最後のよりどころでもあったミンですら自分を受け入れくれないと悟ったスーはついに社会性から出て行ってしまう。
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