きりんさん

羊の木のきりんさんのネタバレレビュー・内容・結末

羊の木(2018年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

楽しみにしていたので予告を二回観て以降の情報一切無しで鑑賞。

楽しみにされてる方はネタバレ踏まないように頑張って欲しい。


面白かった。


錦戸亮を月末にあてがったのは凄い。漫画の月末を見て驚いた。

登場人物の中で月末のキャラクターが1番理解できる。あの臆病さや素直さが人間味を感じる。

月末の人間味と対照的なのが元受刑者達。何処から来たのかもわからない得体の知れない移住者に対する不気味さ、不信感がより強調される。

月末と元受刑者達が一対一になるシーンは緊張感があって面白い。


6人の元受刑者の中で宮腰と杉山は根本的に悪の側の人間だ。

杉山はズル賢い。物事の善悪に対して人並みの分別が付くが、退屈凌ぎに簡単に日常を壊そうとする。

一方、宮腰は所謂サイコパス。物事の善悪など興味はない。罪悪感という物を知らない。他者に対する共感もない。自己中心的に都合が悪くなればサラッと殺す。自分が殺した相手の事を忘れている。人を殺した事を無かったことのように平常心を保てる。

その淡々とした所が怖くて良かった。

でも宮腰自身、そんな自分の本質が努力や他者の力では解決しようのない物だと理解していた。

宮腰は宮腰という人間を辞められない。

それを月末に告げたシーンは印象的。

切り立った崖、夕闇と真っ暗な海、打ち付ける波。それは宮腰の心理的状況そのものだ。彼にとって生きる事は相当辛い事だと思う。生きてる限り自分は自分でしかない。そんな苦しみをずっと抱えている。

狂気と切なさが入り混じったキャラクター、松田龍平にピッタリな役だった。
月末に対する素直さは行天を彷彿とさせる。


残り4人の元受刑者達は善の側の人間だった。

もっと救いのない世界を想像していたので安心した。

みんな自分の罪に対して向き合っていた。自分達を受け入れてくれた人達に自ら正体を明かす決断をした。

黙っていても良い事を相手の為にしっかり話す姿は良かった。

私は元ヤクザとクリーニング屋の内藤さんが大好きだ。あの2人の日常をただただ観ていたい。

ただ1人自分の事を他人に語っていない栗本も自分なりの方法で乗り越えようとしていた。

みんなして優しい人間に出会えるわけでない。栗本は1人。そこが御都合主義止まりではなくて良かった。一人遊びが得意な子供の心理に近い。他人から見たら「1人」=寂しい。でも本人はそんな事どうでもよくて楽しくやれてる。栗本もそうやって自分なりに幸せを見つけていける人間だと思う。


のろろ祭

この作品で重要な役割を果たすこの奇祭。日本ならのろろ祭の元ネタになるような祭は彼方此方で催されてるだろう。

地方伝承系ネタが大好きなので大変ワクワクできた。

のろろ様の不気味さ、何の躊躇いもなく言い伝えを受け入れる住民、素晴らしい。

よそ者だからこそ味わえる異質な空間が大好きだ。

魚深を一度離れた石田文もそれとなく味わってきた違和感だと思う。

文は都会に居られなくなるような事をして帰ってきたのだと思う。不倫だけじゃない気がする。

本人もそれなりに罪悪感があるのか詮索してくる月末を冷たく遇らっていた。

彼女もまた元受刑者達と同じ。内容は違っても人は何かしら罪を犯して罰を背負って生きている。ほんの些細な事、例えば嘘を付く行為も罪だ。バレなくても嘘を付いた本人には罪の意識がしっかり芽生えるだろう。と同時にそれは我々が根本的には善の側の人間である確かな証明だ。

「善い人」と「悪い人」の概念について考えさせられる作品だった

1か0の話ではなくサイコパス宮腰の中にも「善」があってそれを感じさせられる場面を思い出すと切ない。彼は友達(月末)という存在を大切に思っている。彼女である文より大切に思っている。だから夜の海誘って弱音を吐いて身投に至ったんだ。

ああ、切ない。

こういう緊張感のあるサスペンスは大好きだ。この緊張感は劇場で味わうに限るな。

邦画はスクリーンで観る価値ないと思う時もあるけど、ドキドキしたいなら家から出なきゃな。

見応えのある映画で満足でした。
きりんさん

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