けまろう

羊の木のけまろうのネタバレレビュー・内容・結末

羊の木(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

『羊の木』鑑賞。吉田大八監督は期待通り面白い作品を撮る。個人的には前回の『美しい星』の方が好きかも。
元犯罪者の社会復帰と地方創生という二つの社会問題が根底に展開されるサスペンスドラマだ。海から来た「のろろ」という神の伝承がある北陸の魚深市という辺鄙な街が舞台。そこに、事情のある六人の男女が訪れる。彼らは全員元受刑者で、殺人を経験していたのだ。彼らは十年魚深市に住むという全く新しい釈放制度の下で釈放された受刑者だった。受刑者を減らして税金の支出を抑えたい国と地方過疎対策を進めたい市のニーズがマッチして進められる秘密裏のプロジェクトを、主人公の月末(錦戸亮)が担当する。
元殺人犯を六人移住させるという月末の不安に応えるように起きてしまう殺人事件。誰が犯人なのか、揺れ動く月末の心情を錦戸が巧みに演じる。果たして再犯者は誰なのか、元殺人犯たちは社会復帰が叶うのだろうか。
呼応するようにたして展開されるのがのろろの伝説だ。魚深市には守り神のろろの大きい像が中心部に聳え立っているが、決して見てはならないという。子供たちが興じるのろろゲームは宗教じみた不気味さがあり、昔は二人を捧げ一人が選ばれる類の人身御供すら行われていたという。のろろは海(外部)からやってきたが、住民がのろろに負けなかったため、のろろは街の守り神となったのだという。物語には外部から来た人間が七人居る。六人の犯罪者と東京で働きに出ていた月末の同窓生文(木村文乃)だ。(意図せずだが)文の存在によって中庸だった物語が進み、再犯を重ねたサイコパスが宮腰(松田龍平)であることがわかる。
ラスト岬で対峙する月末と宮腰。殺人を許せない月末と殺人を犯してしまう宮腰。どちらかが消えなければならないと宮腰は語る。人身御供の再現によりのろろに運命を選択してもらおうというのだ。友情を信じていた月末が宮腰の手を取り岬から落ちていくシーンが白眉か。思わず息を呑む構図だ。
最終的に、のろろの像の首が取れて宮腰に直撃。守り神の選択により月末が助かったのだ。タイトルである羊の木と「狼のみそれを貪る」という東タタール旅行記の言葉は、草食動物に混じることのできない狼を意味しており、性根からの犯罪者が日常生活を送ることのできない事実を示唆している。
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