ふたーば

ムーンライトのふたーばのネタバレレビュー・内容・結末

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

う、うおおぉ……なんだこの感情は……

同性愛者が色々あって思うようにいかない物語を最近それなりに見るようになったのだけど、この映画は今まで見てきた他の映画とは全然違う。大切な人とのつながりを社会に阻まれたり、婚姻という制度に阻まれたり……という話に見えて、これは微妙にそういう外的な要因による説明を許そうとしない厳しさがあると思う。

むしろ、社会的なしがらみや黒人社会に強いられる困難さと闘ってなんとか自分のステータスを勝ち取ったのに、一緒に生きたい人とは生きられないという、そのバランスのもたらす妙味を感じる……

しかし「愛は得られない」みたいな話だと思えば、ギャングものってそういう話が多いよな……黒人のバイブルとされる『スカーフェイス』も、方向は違うけど『ヒート』もまぁ程度の差こそあれそういう話ではある。「結局暴力でのしあがったって家族が居なきゃ寂しいもんだよ」みたいな……

ただこの映画が決定的に違うのは主人公の寡黙さ、映画の静かさにあるんじゃないかと思う。ギャングものに多い「強いけど空虚」の世界観には何かこう、強さを人としてのマズさの言い訳に使うところがあってイマイチのれないのだけど、この映画にははじめから暴力にもお金にも陶酔感がない。とうに死に体だった生活からの出口として裏社会しがみついたけど、法を破る前から、人間としてより残酷で逃れようのない孤独がシャロンを支配していた感がある。

ただ救いがないというわけでもない。それはこの映画のタイトルになってる『ムーンライト』が示す通り、光の当て方によって見え方は変わってくるのだ。なんと言ってもシャロンはちゃんと生き延びる強さを手に入れて本人もそこに誇りを持っているし、自分の気持ちをケヴィンに伝えることはできた。ただそこから先に、ゾッとするような冷たい孤独さが待っているだけ……その絶望感がこの映画の持つ独特な色彩の光源なのだと思う。

映画が"Every ni**a is a star〜♪"で始まっていたのは皮肉ではなく(Kendrick Lamarのアルバムでも引用されているが、あのときは反語的な問い掛けだったと思う)、あの社会のすべての黒人に、過酷な社会を生き延びた人間にしかない美しさがあることを語っていたんじゃないかな。

この映画のすごいところは、映像や人物の表情やセリフの言い方、そのすべてを「映画」という媒体を通して触れないと、その意図を正しく汲み取れないところにあると思う。なので、まだ見てないのにここまで読んで下さった方がいればぜひ見てください。傑作でした。
ふたーば

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