アルフ

ムーンライトのアルフのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.5
『キャロル』と『ムーンライト』の登場はクィア映画史のエポックメイキングだと思う。映画『ストーンウォール』がホワイトウォッシングされて史実の政治性が切り縮められてたのとは対照的に、この二作はごくごく個人的な領域の愛をアンチクライマックスで描いたことで逆説的に不断に続く日常に折り畳み込まれている権力関係や社会性や政治性を効果的に映し出しているように思う。

もちろんそうした作品はこれまでにもあったけれど、『ムーンライト』の事件性を排した(とはいえ事件は起きる)出来事の連なりの新しさは、貧困や差別の構造がなかなか容易には変化しない日常が継続していく中で成長譚やセンセーショナリズムを慎重に避けながらクィアな主人公が死なずに、恋をし(それも純愛)、生きていく点にある。生きているってとても大事。

またそうした日常を独特の色彩感覚と構成的なフレームで映し出していて、黒い肌を決して単色ではなしに多彩にとても美しく撮っている。アフリカ系アメリカ人の運動の中で唱えられた「ブラック・イズ・ビューティフル」がホモエロティックに読み替えられることでその理念の本質主義を揺るがしながら引き継がれているようにも感じた。

貧困層の黒人の同性愛者の極私的な愛の物語を描くことが今のアメリカの現実政治へのカウンターになってしまうというアクチュアリティも含めて、『ムーンライト』がオスカーを今年受賞したことの意味は大きいと思う。公開されたらまた観に行きたい。
アルフ

アルフ