MasaichiYaguchi

サーミの血のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

サーミの血(2016年製作の映画)
4.0
UPLINK吉祥寺で鑑賞。
ラップランドについては名前を含めて地理的なことは知っていたが、そこに住む先住民族サーミ人に関しては本作を観るまで何も知らなかった。
サーミ人のヒロイン、エレ・マリャが妹ニェンナの死去によって、現代から少女だった1930年代を振り返る形で物語が展開していく。
そこで描かれるのは、不当で不条理なサーミ人に対する偏見と差別。
当時、支配者側のスウェーデン人から劣等民族としてサーミ人が扱われていた実態が映画の前半から随所に登場する。
日本の先住民族というとアイヌの人々が思い浮かぶが、彼らとの接触の機会が殆どないので個人的な実感は薄いが、未だに人生の節目、就職や結婚、更には出産において偏見や差別があるとのこと。
現代においてでさえ偏見や差別が残っているのに、作品の主な舞台となっている1930年代なら尚更、露骨に行われていたのだと思う。
そんな社会から色眼鏡で見られ、枷を掛けられた多感で聡明なヒロインは、その状況を打破しようと画策し、思い切った行動を起こしていく。
だが、その行動は自らの民族や生まれ育った故郷を否定することに繋がっている。
映画冒頭での年老いたヒロインの頑な言動の背景が、物語の進行と共にはっきりと見えてくる。
「血につながるふるさと、心につながるふるさと、言葉につながるふるさと」を否定しなければ生きたいように生きられない理不尽、それでも敢えて立ち向かったヒロインの凛とした姿と、心に抱えていた呵責と悲しみが最後にスクリーンから溢れてきて余韻を残します。