真一

ディザスター・アーティストの真一のレビュー・感想・評価

3.3
 コミュ障で天涯孤独の金持ち男が、自分を馬鹿にする世間を見返してやろうと考え、札束の力に物を言わせて自主製作映画「ザ・ルーム」の上映にこぎ着けるー。そんな実話を映画化したのが、本作品です。600万ドルもの巨費を投じて完成させた「ザ・ルーム」は、呆れを通り越して笑いを誘うほどのZ級。もっとも興行的には黒字になったそうです。映画の奥深さを感じさせる一本です。

 舞台は米国西海岸。役者志望の青年グレッグは、ひょんなことから風変わりな長髪男トミーと知り合い、ロサンゼルスで自主映画の制作に取り組みます。驚くべきは、謎めいたトミーの財力!ハリウッドの映画スタッフや役者を次々と雇い、クランクインする。一切の経費のほか、脚本、監督、主役もトミーが担当。グレッグは準主役だ。

※以下、ネタバレを含みます。

 撮影現場でのトミーの振る舞いは身勝手そのもので、グレッグを含む役者たちの反感を買うが、トミーは意に介さない。スポンサーは自分自身だからだ。すったもんだの挙げ句、ついに映画「ザ・ルーム」のプレミアム上映日を迎える。観客の嘲笑に当初は傷ついたトミーだったが、グレッグから「みんな喜んでいる。これでいいんだ」と言われると、急に笑顔になる。

 ここで観る人は気付く。孤独なトミーが映画撮影を通じて得たかったのは、世間的な評価ではなく、人生初の友であるグレッグからのリスペクトと、深い絆だったのだ。そして支離滅裂に見えたストーリーも、実はグレッグへの愛情と嫉妬、葛藤をにじませた内容だったことが明らかになる。こうして見ると、本作品「ディザスター・アーティスト」は、非常に練られた映画だと思います。

 それにしてもトミーは、あんなに金持ちなのに、なんで天涯孤独なのだろうか。なんでグレッグをあんなに気に入ったのだろうか。作品は答えを用意してくれていないが、察するに、トミーはゲイであることを隠しながら生きている人物なのかもしれない。そう考えると、グレッグに彼女ができた時に荒れ狂ったことも合点がいく。トミーは、この差別と冷笑に満ちた社会が生み出した被害者なのかもしれませんね。
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