Kachi

THE BATMAN-ザ・バットマンーのKachiのレビュー・感想・評価

4.0
【重厚感あるバットマン】

3時間観る体力のある日がなかなか訪れず、ようやく今日に至る。画面は黒を基調にした調子が続き、腐敗の街ゴッサムがノーラン三部作以上に重たい。

なぜここまで重厚感のある作風にしたのか、ということをこんなに上映時間が長いので思いながら観ていた。そして本作はおそらく、近年SNSで拡散される陰謀論というものを、バットマン作品の文脈で当てはめて描いてみたという実験的な試みとして捉えると腑に落ちるのではないかと思った。

ノーラン三部作は、ブルース・ウェインを襲った悲劇とその後のバットマンの暗躍に感情移入しやすい作品であった。

翻って本作はどうかと言えば、ブルース・ウェイン本人の拠り所であった「父は偉大な人物だった」という前提そのものに疑義が投げ掛けられる。匿名性を帯びた者達によって、さまざまな「証拠」の数々から再開発を隠れ蓑にした汚職や腐敗の上に現在のゴッサムが成り立っているという可能性が提示され
拡散される。それらの情報は、確からしくもあるが、作中を通じ、いつまで経っても確証が持てる状態にはならない。

この靄がかかった状態でバットマンを見続けると、彼の行動を支持しようとする気持ちが薄らいでいく。間違った前提のもとに、復讐をしているのかもしれない。そもそも、ウェインは孤児でありながらもアルフレッドに守られており、リドラーが作中直接言及するように「本当の孤児」とは言えないほど良いご身分であるという欺瞞さえ抱きかねない。

まさにリドラー(Riddler=なぞなぞ屋)の謎々に掻き回されて、真実と嘘の境界が溶解していき、鑑賞者を不安にさせ続ける、そんな作品だった。

そんな本作に唯一の救いがあるとすれば、洪水に襲われたゴッサムをたいまつを焚いて市民を助けるバットマンの姿である。さながら、「民衆を導く自由の女神」をオマージュした描写であり、こんな時代のリーダーは高みから見下ろすのではなく、民衆のところまで降りて行き、共に苦しみもがきながら進んでいくしかないことを表現しているようにさえ思えた。

時代性が極めて高く反映された本作。正直観ていて楽しい作品ではなかったが、こんな時代に生きているという現実を突きつけられた作品であることには間違いなかった。
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