木葉

苦い銭の木葉のレビュー・感想・評価

苦い銭(2016年製作の映画)
4.0
出稼ぎ人間観察ドキュメント。
はたらけど、はたらけど。
中国では、出稼ぎのことを、苦い銭を稼ぎに行くというらしい。
無言歌、雲南の三姉妹、収容病棟に続いて、ワンビンが被写体にしたのは、地方から出稼ぎに出て縫製工場で働く人々。
朝から、夜遅くまで、苦い銭のために、ただただ働いて。
初めて街で働き始める少女、少女と同じ工場で働く女性と夫との激しい夫婦喧嘩、夫婦喧嘩の仲裁に入る45歳の男、その男は麻雀に明け暮れ、楽に稼げる方法はないかと探しマルチ商法に興味を持ち、同じ部屋に住む男は酒に溺れていく、仕事をすぐ辞め故郷に帰っていく男、いろいろな人を主人公にしながら、リレーのように物語を紡いでいく。
手持ちカメラで程よい距離を取り、カメラがあることを意識せず、ありのままの人間の本性、素が出てくる、出てくる。
こんな映像を切り取れるワンビンは、なんて凄い人なんだと思いつつも、あぁ、これは片隅で生きる私たちのことでもあるんだ、と納得させられる。
食べていくために働いて、1元=17円のお金に一喜一憂して、お金に支配されながらもささやかな楽しみを持つ。
淡々と、人が働くってどういうことなのか、安いからと必要じゃないものも買ってしまう感覚も、考えさせられる。
ワンビンの中国体制への鋭い批判も透けて見える。
豊かになる人と、そうでない人の格差が広がっている中国の底知れない現実を目の当たりにする。
ワンビンの映画にはドラマがあるわけではないし、仕掛けや、変化もあるわけではない。ただ、何も起こらない、その日常こそが最大の変化で、ちょっとした一瞬に輝きがあることを教えてくれる。
人間は所詮小さくて、ケチでわがままでどこにいても一緒なんだなと感じながらも、銭のために自分の欲望に素直に生きていくさまは潔く、力強さを感じる。
社会の底辺に生きながらも、粘り強く生きていく彼らの姿をいつまでも観察していたくなった。
木葉

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