きゅうげん

ゲット・アウトのきゅうげんのネタバレレビュー・内容・結末

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

これ夢幻紳士の『脳交換クラブ』じゃね?

「月明かりの下で黒人の子供は青く見える」というのはこの作品の前年に公開された『ムーンライト』の戯曲版タイトル。
今作でも、クリスやロッドは基本的に青い服、対してのローズは赤いセーターを着ています。また黒人女性刑事も青シャツだったり、ローズの写真箱が真っ赤だったり。対立する色で対立する人種を意識的に表しているのでしょう。
そして正体を表したローズは真っ白な部屋の真っ白なベッドで真っ白な服を着て、次の獲物を探すのです。


今作で重要なのは、黒人を抑圧する白人が必ずしもレイシストや共和党支持者などではなく、教養や文化理解に造詣の深いリベラル層の人間である点です。
彼らが黒人の歴史や現状、文化観や身体性などを十分に理解しているからこそ、白人至上主義者のように突き放す黒人差別とは別の、一見して歩み寄りにも見える振る舞いや考えが、一種の横柄さや不遜さ、ひいては差別として顕現するようになっているのです。
しかしこの意識/無意識のファクターを、必ずしも白人だけの問題として批判しているわけではありません。途中でロッドが警察へ相談しにゆく場面がありますが、ここで彼は黒人女性刑事やヒスパニック系と思われる男性刑事へ必死に事件を説明します。ロッドの推論は少し穿っており視聴者にもちょっと可笑しく映る側面がありますが、ここで彼女たちの全く取り合わず「変なヤツの通報」と一笑に付す様子を写すことで、人種とはまた別の、社会的地位・職業・教養などからくる偏見を提示し、この差別の眼差しは普遍的に誰にでも潜在していることを気づかせるのです。白人の中に日本人がいるのも同様のエッセンスでしょう。


しかし手放しに受け入れられないのは、クリスの脱出が暴力的なもので、白人を(元白人も含め)皆殺しにしてゲットアウトするラストです。
抑圧する白人を殺すことで解放される黒人。本来はクリスが殺人で逮捕されるエンドだったらしいですが、駆けつけた「兄弟」ロッドに助けられるエンドでは随分異なるメッセージへ着地してしまうように思います。
とはいえピール監督らしいホラー的なクオリティには唸らされます。とくに効果的な不協和音。
例えば催眠術の起点となるカップとスプーンを擦る音や、ローズの弟の弾く下手くそなウクレレなど、気色悪さを絶妙に引き立てます。

ジョーダン・ピールらしい、社会的なメッセージに裏打ちされている恐怖。新時代の旗手にふさわしい秀作ホラーでした。