すずき

ゲット・アウトのすずきのレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
3.8
白人の富豪一家の娘ローズの実家にお呼ばれになった、彼女の恋人のクリス。
黒人である彼は、それを不安に感じていたが、ローズは「家族は差別主義者じゃない」と笑う。
ローズの家族は暖かく迎えてくれたが、クリスは妙な違和感を感じていた。
それにローズ邸の家事手伝いとして雇われている、2人の黒人男女の様子もおかしい。
居心地の悪さを感じた彼は眠れず、夜中に寝室から出る。
そこに精神科医であるローズの母親が、彼にセラピーと称して催眠術をかける…

「アス」「NOPE/ノープ」のジョーダン・ピール監督の、衝撃のデビュー作。
白人娘が黒人恋人を父親に紹介するが、「ゲットアウト!(出ていけ!)」と差別主義者の父親にショットガンを突きつけられる…という、よくある?話に大胆なツイストを加えて、ホラーとして黒人差別問題を描いた本作。
「ゲットアウト」という言葉はもちろん本作でも使われるが、その真意を知ると背筋が凍る気味の悪さだった。

中盤までは、数々の小さな出来事への違和感を描き、さしてホラー的な恐怖体験は描かれない。
現実世界でもなくは無い、そのちょっとした事の違和感や、部外者として集団の中にいる事の居心地の悪さを、さも恐ろしく描くホラー演出手腕は見事。

ジョーダン・ピール監督は、人種差別問題などのテーマをホラー映画で表現するのが十八番の監督だけど、はっきり言うと、私はその要素は説教臭くてあんまり好きじゃない…。
だがこの映画は、白人による黒人への差別を描いたものなのだろうか、と疑問に思った。
劇中、主人公が受けた仕打ちは、結局は差別感情によるものではなかった。
彼が白人達とのパーティで感じた居心地の悪さも、差別的な言動があったように思えない。
パーティの出席者は、主人公を自分たちとは違う身体的特徴を持つ客人、として扱っている。
その「違い」に触れるのに、多少失礼な言動こそあったけれど、それはどんな他人同士の関係でも起こりえる事じゃないかな。
映画後半で判明する事実により、結果的には彼が抱いた違和感は正しかった。
だがそれが判明するまでの間は、差別認定の言いがかり、とまでは言わなくとも、主人公が自ら、黒人と白人の間に壁を作っているのではないか、と感じた。
これは日本人の私が見た感想だから、アメリカ本国では人種差別に関する考え方とは違うかもしれない。
でも、私はそれでいいと思うんだ。それがアメリカの歴史文化だし、何が良くて何がいけないかは国によって違う。

そんな社会的なテーマを裏に描きつつも、クライマックスはしっかりとエンタメで盛り上げてくれるのはジョーダン・ピール監督の好きな所!